専門研修インタビュー

2021-07-01

武蔵野赤十字病院(東京都) 専攻医 吉田耕輔先生(救急科) (2021年)

武蔵野赤十字病院(東京都)の専攻医、吉田耕輔先生(救急科)に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2021年に収録したものです。

武蔵野赤十字病院

東京都武蔵野市境南町1丁目26−1

吉田先生の近影

名前 吉田 耕輔
出身地・出身大学 / 医師免許取得年度 京都市・ 滋賀医科大学 / 2019年

医師を目指したきっかけをお聞かせください。

小学6年生の時に父が亡くなったことが大きなきっかけです。私にとってはかなり辛い経験でしたが、それをずっと引きずっていくのも嫌で、この経験を何か活かせないかなと考えたときに医師という職業なら良い経験に一番変えやすいのではないかと気づきました。とは言え、中学、高校時代は水泳部の活動ばかりに力を入れていて、勉強していたわけではありませんでした。医学部を目指すと決めたのは高校1年生の途中で文系、理系を分ける進路選択のときでした。

学生生活はいかがでしたか。

大学時代も水泳ばかりしていました。集中して取り組んでいたので、西医体の個人種目と団体種目のリレーでは2年連続で優勝できました。個人種目は400メートル個人メドレーです。大学のプールがインドアではなかったので、冬場は近くのスイミングスクールをお借りしたり、ほかの大学の練習に参加させていただいたりしていました。勉強は部活動のためにしていましたね。部活動に打ち込むために勉強して試験に合格しようと言っていました(笑)。

実習ではどのようなことが印象に残っていますか。

私の大学では休みに厳しく、長期休暇もあまりない状態でしたので実習と就職活動の両立に苦心していた印象です。病院見学に行く日数が限られていたため、東京の病院に見学に行くのも大変でした。そのため、周りの人に比べると、見学を始めるタイミングが遅くなり後悔した覚えがあります。

初期研修の病院を武蔵野赤十字病院に決めたのはなぜですか。

部活動でお世話になっていた3つ上の先輩に東京出身の方がいて、武蔵野赤十字病院に初期研修に行くことになったと聞いたんです。そのときに「すごく人気のある病院に受かった」と知り、どんな病院なのかと気になり、見学に行ったのがきっかけです。5年生の1月に見学に来たのですが、緊張しっぱなしだったので、正直あまり覚えていません。ただ、忙しい仕事の中でも丁寧に対応していただいたことが印象に残っています。私の大学では部活動はせず、実習をしっかりやって、勉強ばかりしている方が良い病院とマッチングできるのではという風潮がありました。でも私は部活動に重きを置いていたので、それがどこまでマッチングに通用するのか、自分が大事にしてきたことがどれだけ評価してもらえるのかを試したくて、武蔵野赤十字病院を受けようかなと思いました。

初期研修を振り返って、いかがですか。

2年間を振り返ってみると、自分に持っていない色々なものを持っている大勢の同期に恵まれたという印象です。当院に来なかったら得られなかった経験をさせていただき、周りに引っ張られながら、2年間を過ごしました。コロナの関係で交流も限られていましたが、とても充実した2年間でした。武蔵野を選んでよかったです。

救急科を専攻しようと決めたのはいつですか。

初期研修2年目の7月です。もともと泌尿器科を考えていて、病院見学もずっと泌尿器科で行っていたんです。泌尿器科を希望したきっかけは周囲から「泌尿器科に向いていそうだね」と後押しされていたからです(笑)。実際泌尿器科を回ってみると、確かに雰囲気も良く、手術もあって楽しかったのですが、最重症の患者さんが来る急性期で働きたい、人の生命に関わるところで働きたいという思いもあり、最終的に救急科を選びました。救急科はゼロをイチにできる唯一の診療科だという考え方に魅力を感じたんです。

専攻医研修先として、武蔵野赤十字病院の救急科専門研修プログラムを選んだのはどうしてですか。

初期研修で2年間を過ごして、働きやすい病院ということは知っていました。スタッフの先生方からの熱い勧誘もあり、自分を必要とされているところで働きたかったからです。また長期的にはダブルボード取得を目指していますがまず後期研修では初療・ICU管理など偏りなく研修し自分の救命救急医としての土台を作りたいと考えていました。それに当院の研修スタイルがマッチしていたのも決め手でした。最近は比較的若手のスタッフも多く非常に勢いのある診療科です。当院は初期研修では人気病院ですが、専攻医研修でもより勢いのある病院にしていくために、私もその一端を担えればと思いました。私と仲の良い同期も救急科で研修することが決まっていたので、一緒に頑張りたいと考え、当院を選びました。

吉田先生の写真-1

専攻医研修はどのような内容ですか。

基本的には三次救急、ホットライン、ICUとHCUの病棟管理を総合的に行うような形で研修を進めています。日勤・夜勤を含めて、偏りなく研修できるバランスの良さが特徴的だと思います。また、希望によっては院内で他科研修を行うことも可能です。先輩では週一回放射線科で研修を行いIVRの修練を積まれている方もいらっしゃいます。夜間緊急での症例は救命科でIVRを行いますので実際に放射線科で定期な研修を積みながら緊急症例で実践できる環境は非常に魅力的だと思います。

専攻医研修で特に勉強になっていることを教えてください。

正直毎日が勉強です。特に夜勤では後期研修医が主体となり意思決定が必要な立場での勤務が多くなります。場合によっては自分でECMOの挿入から管理までを後期研修医が担う場面もあります。また、病棟管理などももちろん勉強になりますが、最近では初期研修医の卒業研修発表が特に勉強になっています。これは昨今話題になっている論文を初期研修医が読み、それに基づいて発表するという会なのですが、そのサポート役を専攻医が務める制度になってきつつあります。そのため、初期研修医に教えながら自分も勉強しているので、とても新鮮な感覚です。

当直の体制について、お聞かせください。

夜勤が多い月だと、10回弱あります。今日も当直明けです(笑)。メンバーは基本的には3人体制か4人体制です。3人体制のときは部長か副部長クラスの先生が1人、専攻医からスタッフクラスが1人、初期研修医が1人です。4人体制のときは専攻医からスタッフクラスが2人だったり、初期研修医が2人だったりします。夜勤はICUから病棟、3次救急までの全てを同時に管理するため自分の能力が試されます(笑)ただ上級医から困った時はフィードバックをいただけるので安全面での工夫はされていると思います。また、脳神経外科や整形外科などは毎日当直医師がいるので適宜相談できるのも恵まれた当直環境だと思います。

指導医の先生方のご指導はいかがですか。

ときには厳しく指導されることもありますが、基本的に愛に溢れた指導です。失敗した時は甘やかすのではなく心から指導してくださいます。直接、優しく接してくださるわけではなく、私たちのことを思って教えてくださっているのだということを先生方の言葉の節々から日々感じます。当院の理念にも「愛の心を高め、『愛の病院』を実践する」とありますが、日頃はそれを意識して働くことがなくても、結果的にはそうなっていて、愛の病院に染まっています。救命救急科の場合、ER・内科・外科・麻酔科・IVR・神経集中治療など各領域に精通した指導医がいらっしゃいますので非常にバラエティに富んだ診療を経験できています。

病院に改善を望みたいことはありますか。

救急科専門医や集中治療専門医の資格は当院にいたら間違いなく取れると思います。ただ新専門医制度の関係上、一部の科では大学病院での研修が必要ですので外科や整形外科に集中した研修いわゆるダブルボード取得に重きを置いた研修は当院だけで完結する事は難しいと思います。これはどの施設も共通の問題だとは思いますが・・・。ただ、当院は幸い各診療科間の垣根が非常に低く積極的に院内研修を受け入れる体制が出来上がっておりダブルボード取得に向けた土台づくりは十分可能であると考えます。今、その制度を少しずつ作っていただいているところなので、こういう面がこれから形づくられていけば、さらに良い専攻医研修になると思います。あとは建設計画中の新病院が完成すればより快適な研修になるのではないかと期待しています。

初期研修医の指導にあたって、気を付けていることはありますか。

自分がキャリアを積めば積むほど、当たり前のレベルが上がっていきます。その当たり前のレベルと1年目の初期研修医のレベルは違うので、自分が1年目のときに何ができなくて、何ができたのかを考えながら指導するように心がけています。ただ私もまだ専攻医が始まったばかりでその余裕がないと言うのが正直なところです。救急車が同時に来た時や病棟で急変した時などは多少興奮気味に「これして」とか、「まだしてへんの」とか言ってしまうので、反省しながら研修させていただいています。早く上級医の先生みたいな落ち着きを身につけたいところです。とりあえずは初心を忘れず研修医と奮闘していきたいと思います。(笑)

カンファレンスはいかがですか。

カンファレンスはかなり多いです。朝は診療グループ内の回診、その後ICUの申し送りがあり、そのあとに救急車やホットラインで来た患者さんのカルテを見ながらの振り返りを部長クラスの先生方を含めて行います。そして、多職種カンファレンスがあり、ICUの看護師さん、薬剤師さん、リハビリのスタッフの皆さんと方針を共有します。さらに、重症度が一つ低いHCUでも同様のカンファレンスをします。救急科は申し送りを大切にしている日常なので、私たち専攻医も他科の専攻医よりプレゼンの機会は豊富です。私は難しい内容を簡単にまとめて話すことが苦手なタイプなので、知識不足のところはありますが、場数を踏んでいかないといけないなと思い、少しずつ頑張っています。

コメディカルのスタッフとのコミュニケーションはいかがですか。

初期研修医の頃から、当院はコメディカルスタッフの方々との垣根が低いと思っていました。日常業務でも話しやすく相談しやすい雰囲気があります。診療においてはスタッフ間でのチームワークが不可欠です。特に集中治療室では頻繁に検査や点滴のオーダーがあり医師サイドから無理を頼むこともありますが快く受け入れてくださいます。疎通性の取れた関係性が築かれているのも当院の良いところの1つであると思います。

何か失敗談はありますか。

色々とありすぎて、一つに絞れないですね(笑)。昨日は初療当番だったのですが、救急車が3台ぐらい一気に来て、一つのことに集中するあまり、ほかの患者さんの検査や方針の進行が滞ってしまいました。結果的には指導医の先生に怒られ、指導医の先生がカバーしてくださいました。同時に複数の患者さんを診ることへの能力の低さを痛感して落ち込みました。

専攻医研修と初期研修の違いはどんなところにありますか。

持たされる責任の重さが違います。初期研修医だとカルテに「上の先生と相談した」という一言をつけるだけで責任逃れもできてしまうのですが、専攻医は初期研修医からの相談を受ける立場になるので、一つ一つの決定に対し、自分が責任を持たなくてはいけないということをより重く感じるようになりました。

研修医同士のコミュニケーションは活発ですか。

初期研修での同期が5人も専攻医研修に残ったということもあり、活発な方だと思います。救急医は色々な科にコンサルトするのですが、そのコンサルト先に初期研修での同期がいれば、コミュニケーションをとりやすく、こちら側もリラックスできます。また救急科の同期とはルームシェアもしています(笑)。寮みたいな感じで、仕事にもいい影響を与えられたらなという思いで、初期研修2年目の2月から共同生活をしています。当直で入れ替わったりもするので、意外に自分一人の時間もありますよ。家で一緒にいるときは「今日、こんなことがあった」とか、「こういうとき、どうしてる」といった話や相談をして、切磋琢磨しています。

今後のご予定をお聞かせください。

救急科専門医と集中治療専門医を取得するのが目標ですが、サブスペシャリティに関しては未定です。ただ、初期研修のときからずっと当院にいるので、ほかの病院に一度は出て、専門性を身につけてから当院に帰ってくるのもいいかなと思っています。手を動かすことが好きなので放射線科のIVRや手術も好きなので外科や整形外科など、自分に合うものを見つけて進みたいですね。今、それを探している最中です。

現在の臨床研修制度について、ご意見をお願いします。

医学生が自由に希望を出して選べるところが良い制度だと思います。武蔵野赤十字病院は学科試験がなく、学力以外のところで評価してくださる病院です。自分に合った病院を自分で選べるのは魅力的なシステムですね。

専門医制度についてもご意見をお願いします。

以前はいわゆるダブルボードを容易に取れていたのに、新専門医制度になってからは専門医を取りにくくなったので、個人的には残念です。例えば内科の専攻医はとても厳しくなりました。私は内科に興味がないわけではなかったのですが、こういうこともあって、内科に進む気持ちが薄れていきました。これは内科全体にとってはデメリットではないかと感じます。働きながら専門医を取りやすい制度を作れば、内科も人気が出るのではないでしょうか。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

まずは救命救急科に興味がある方は是非武蔵野赤十字病院救命救急センターを見学にいらしてください!スタッフ一同熱く歓迎します。私は実家に帰ることも考えたこともあり、関西の病院も含めて、4病院ぐらい見学に行きました。コロナ禍になり、見学が難しい時期もありましたが、やはり病院見学には複数病院行くことをお勧めします。自分のやりたいことができるかどうかということももちろん大事ですが、自分が心地よくいられる雰囲気を持った病院で働けるのかどうかが大事です。複数の病院に見学に行って、それを見極めましょう。

吉田先生の写真-2

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