専門研修インタビュー

2021-09-01

中東遠総合医療センター(静岡県) 指導医(専門研修) 伊藤裕司先生 (2021年)

中東遠総合医療センター(静岡県)の指導医、伊藤裕司先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2021年に収録したものです。

中東遠総合医療センター

静岡県掛川市菖蒲ヶ池1-1

医師近影

名前  伊藤 裕司(ゆうじ)
中東遠総合医療センター総合内科部長 臨床研修センター長 指導医

職歴経歴 1980年に愛知県名古屋市に生まれる。2005年に名古屋大学を卒業後、JA愛知厚生連海南病院で初期研修、後期研修を行う。2010年に諏訪中央病院に勤務する。2013年に中東遠総合医療センターに勤務する。2018年に中東遠総合医療センター臨床研修センター長に就任する。 日本内科学会総合内科専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定プライマリ・ケア認定医、 臨床研修指導医、臨床研修プログラム責任者、日本医師会ACLS、ICD制度協議会認定インフェクションコントロールドクターなど。

中東遠総合医療センターの特徴をお聞かせください。

 静岡県掛川市と袋井市の公立病院が2つ合わさった病院なので、医療圏が非常に広いことが特徴です。患者さんが多くいらっしゃることが良いことと言えるのかどうか分かりませんが、多くの患者さんを受け持つ基幹病院です。救急の現場での指導医数が豊富であることは誇れるポイントで、豊富なスタッフによる指導をきちんと行うことを重要視しています。

伊藤先生がいらっしゃる総合内科についてはいかがですか。

 当院という範囲でお話ししますが、専門医がいない領域については総合内科で担当するものだと捉えていますし、目の前に患者さんが来たら全部の方を診るのだと思っています。主治医としての役割を果たす診療科ですが、専門的な処置が必要であれば専門科に渡し、 そうでなければ総合内科で担当します。膠原病や感染症を診ることが多いですが、原因がよく分からず、診断がついていないものや発熱なども診ています。

中東遠総合医療センターの内科専門研修プログラムで学べる特徴について、ご紹介くださいますか。

 当院の診療圏は広いので、その意味では様々な患者さんが来られます。そうした患者さんを各専門科で診ていきますので、様々な患者さんや症例を担当できるのが特徴です。各科が揃っていますので、それぞれの専門科で研修できるのが強みですが、膠原病などの一部の内科はありません。この地域的に膠原病内科が弱いのですが、そうは言っても多くの患者さんがいらっしゃるので、きちんとした診断をつけて治療に繋げることに努めています。1年目は内科各科をローテートしますが、それぞれの思いや希望があり、1カ月ごとに回る人もいれば、3カ月やさらにそれを伸ばして回りたいという人もいますので、なるべく希望に合わせられるように調整しています。一つの科をなるべく長く学んでもらうことで、早く専門家になることを狙うのではなく、3年間のプログラムを通して内科専門医をしっかりと作り出そうと考えています。

外部の病院の選択肢も豊富ですね。

 一つの大学の関連病院に限らず、色々な病院で研修することが大事です。2021年から2022年にかけてはさらに増える予定で、藤枝市立総合病院や私が以前、勤務していた諏訪中央病院とも提携します。専攻医が提携先の病院でその強みを学び、当院に帰ってきたときにそれを伝えてくれたらと思っています。

医師近影

中東遠総合医療センターでの内科専門研修プログラム終了後はどのようなキャリアアップが望めますか。

 「どこに出しても恥ずかしくない内科医を作ります」としか言いようがありません(笑)。スタッフとして当院に残ることも可能ですが、私としてはもう一つ先の専門研修を受けてほしいと考えています。それが当院で可能かどうかという話ではありません。例えば現在、総合内科には膠原病を専攻したい専攻医がいるのですが、その専攻医には内視鏡に強い病院での研修をさせたいです。病院の中には初期研修に強みのある病院もあれば、専攻医研修やその先の専門研修が強い病院もあります。当院に残っても専門性を磨く意味では十分ではありません。適切な研修先にきちんと繋げ、その専攻医が伸びる環境を作るのが私たちの最低限の役割です。専攻医がそういう病院で研修を受け、専門性を身につけて当院に戻ってきてくれるのが一番嬉しいことですし、良い流れができますね。

カンファレンスについて、お聞かせください。

 内科の中で専攻医をどう育てるのかということに関してはまだ発展途上ですが、各科で主治医として患者さんを受け持ってもらい、カンファレンスで各科の専門医が説明をして、しっかり研修させるというのが大前提です。しかし、それだけでは経験しづらいものもあります。各科のカンファレンスは基本的には入院カンファレンスですが、専攻医には外来の患者さんをうまくマネジメントすることも求められるからです。専攻医には外来も担当してもらっていますが、総合内科では指導医と一緒に予習して、指導医がチェックをしています。それが行き届かない部分もあるので、今後は1週間に1回ほど、コモンディジーズについてのサポートもして、外来の患者さんをどのように診ていくのかを勉強してもらいたいと思っています。

総合内科では指導医の先生と予習ができるのですか。

 総合内科では専攻医が外来を担当する日が決まっているので、前日あたりに一緒に予習して、「こういう場合がこういうふうにしていきましょう」と決めたうえで、当日になってイレギュラーなことがあれば一緒に診ますし、イレギュラーなことが発生しなければ「どうだった」と振り返るようにしています。それは総合内科で比較的時間があるときにできていることなので、できていない科に対しても、そういうサポートができればと考えています。コモンディジーズに関しては皆で知識の共有をしていきたいです。

女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。

 内科には女性医師が3人おり、1人は育児休暇中です。女性に限らず、男性も体調に応じて当直免除などがあります。それぞれのスタッフに対応していくことが当院のコンセプトです。院内保育所も完備されており、日によっては24時間対応です。利用している男性医師もいます。

医師近影

先生が総合内科を選んだのはどうしてですか。

 私は飽きっぽいので、同じ患者さんが2回いらっしゃるよりも毎回違う患者さんに来ていただきたいんです(笑)。学生の頃から臓器ではなく、患者さんが良くなるかどうかにしか興味がありませんでした。目の前にいらした患者さんを全て担当して、自分の責任のもとで診療することに惹かれました。また、私は診断が好きで、診断をつけることに興味がありました。総合内科は診断科であり、色々なものの最初になれる科だということも良かったです。大きな理由としては1つ上の先輩に大好きな方がいて、彼が総合内科を選んだこともあります。彼が眼科にしたら、私も眼科だったかもしれません(笑)。初期研修で海南病院を選んだのも彼がいたからで、ほかの病院に見学に行くこともありませんでした。私は臨床研修制度2期生ですが、母校の名古屋大学では以前からスーパーローテートの研修をしていましたので、スーパーローテートには違和感がなかったです。

先生の研修医時代の思い出をお聞かせください。

 後輩が買っていた『ジャンプ』と『ヤングジャンプ』をずっと読んでいた思い出が大きいです(笑)。仕事がきついと思ったことはありません。仕事は楽しいものでもありませんが、お金をもらって仕事をするということは研修医でも専門医でも同じであり、最大限のベストを尽くして仕事をするだけで、それ以上でもそれ以下でもありません。私は自分が納得できない仕事はしてこなかったつもりです。するべきことをしてきただけで、辛いとか、辛くないという感情はあまりありませんでした。小規模な病院なので、同期は12、3人でしたが、同期や先輩、後輩にはとても恵まれました。

専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

 主治医として、患者さんに責任を持ってもらえるような医師になってもらいたいと考えています。これは初期研修レベルですが、それを達成することが最低限であり、そのうえで妥協せず、患者さんにとって一番いいものを提供できるようにサポートしたいです。もちろん私たちが答えを出すことはありますが、できるだけ専攻医が主治医という立場を自覚し、自分で責任を持って、自分で決めるということを強く意識できる深い研修をさせたいですね。そのためには大きなサポートが必要なので、私たちも専攻医が辛いだけの経験にならないよう、色々と検討しているところです。専攻医がきちんと成長できて、しっかりした診断をつけ、何となく「治ったねえ」ではなく、学びを得てほしいです。専攻医が一人一人の患者さんから学ばせていただくという姿勢を常に持ち、この姿勢で一生涯を医師として過ごしていきたいと思ってくれるような研修になればいいですね。

医師近影

今の専攻医を見て、いかがですか。

 総合内科には卒後4年目の専攻医がいますが、受け身にならず、自分から積極的に動いて、自分ができることを探してやってくれていますので、とても満足しています。下の専攻医や初期研修医もしっかり指導してくれていますね。初期研修医を甘やかすのは私たち指導医がすればいいことなので、専攻医には背中を見せて、「ここはこうするんだ」ということを示してほしいと思っています。

現在の臨床研修制度について、感想をお聞かせください。

 私は一つのことをしていると飽きてしまうし、色々なことを広く知りたい性格なので、この制度で良かったです。その土台があったうえで専門科に行くと、様々な場面で役に立つし、色々な科に顔が通じていると相手方にとっても仕事しやすいです。したがって、初期研修では多くの科を回るといいですね。その中で個人の自由も認められるべきであり、初期研修医が将来、何をしたいのかということを理解したうえで、うまくプログラムに反映できるといいかなと思います。

現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。

 私自身は現在の制度に乗っていないので、強い思いはありませんが、内科医という土台をきちんと作ったうえで専門医に行きましょうという制度だと理解しています。その質をどう担保するかということですね。色々な人の色々な思いや良し悪しがあるのでしょうが、内科の土台を作ることには賛成です。逆に、色々な抜け道を作ることに賛成ではありません。例えば3年間の専攻医研修のうち、2年間だけ研修し、残りの1年を専門科に行くというものです。初期研修が2年間で初期研修というように、専攻医研修も3年間を通して、土台を作るべきです。これまでの経験上、優れている専攻医はどの領域でも優れています。最終的には一つの科を専攻するわけですが、それが1年、2年遅れたからといって、将来的な5年や10年で遅れをとることにはなりません。そう考えれば、1年、2年早く専門科に入ることは勧められません。しっかりした土台を作っていった方が良い将来に繋がるはずです。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

 病院からは怒られそうですが、私は全員に当院を勧めようとは思っていません(笑)。自分が伸びそうな病院を選びましょう。私がかつて言われたことは「初期研修は医師としての土台を作る時期なので、近くにロールモデルがいる病院を選び、その人の背中を見て学べ。一方で、専攻医研修はどういう患者さんが来るかで選べ。医療は医師と患者さんとの勝負であって、誰が指導医かというよりも、土台のできた自分が患者さんとどう接するかだ」というものでした。極論ですが、誤嚥性肺炎の患者さんが3000人来ても、誤嚥性肺炎を3000人診たということに過ぎず、経験にはならない場合が多いです。その意味では医療圏が広い当院は典型的、非典型的な患者さんを診られるので、良い選択でしょう。当院でカンファレンスを改善しようとしているのは指導医の層が十分でないのが当院の弱さだからです。専攻医は教えてもらうばかりでなく、自分でやっていくことが一番ですし、当院ではその環境を整えようとしているところです。当院のメリットはやる気さえあれば、色々な患者さんを診て、その範囲を広げていくことができることです。逆に「教えてください」というタイプの人は自分に合う病院を選びましょう。私たちの仕事は来てくれた人たちをどう伸ばすかです。「こういう人に来てほしい」とは言えないですし、来てくれた人を伸ばせる環境はあります。頑張ってみようかなと思ってもらえるのなら、来ていただけると嬉しいです。そのために、私が中心となって、内科専門研修プログラムのシステムやカンファレンスのあり方を変えていこうとしています。皆さんと一緒に新しいものを作っていきたいです。

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