専門研修インタビュー

2022-02-01

福岡青洲会病院(福岡県) 専攻医 永田穂香先生(総合診療科) (2022年)

福岡青洲会病院(福岡県)の専攻医、永田穂香先生(総合診療科)に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2022年に収録したものです。

福岡青洲会病院

〒811-2316
福岡県糟屋郡粕屋町長者原西4丁目11番8号
TEL:092-939-0010
FAX:092-939-2515
病院URL:https://f.seisyukai.jp/

永田先生の近影

名前 永田 穂香(ほのか) 専攻医
出身地・出身大学 / 医師免許取得年度 福岡県・ 佐賀大学 / 2017年
初期研修施設 福岡青洲会病院
専攻医研修 救急総合診療科

医師を目指したきっかけをお聞かせください。

小さい頃から、看護師をしていた母に「お医者さんの仕事はいいよ」と言われていました。3歳ぐらいのときに英語教室に通っていたのですが、英語で「将来、何になりたい」と聞かれたときに、私ではなく、母が代わりに「ドクター!」と答えるほど熱心な母でしたね(笑)。私自身も病気がちで、よく入院する子どもだったのですが、そんなときにお会いする先生方の姿を見ては格好良いな、素敵だなと感じていました。でもリケジョというほどではなく、文系科目の方が得意でした。

学生生活はいかがでしたか。

周りの友人、知り合い、環境に恵まれていたなと思います。アルバイトもしていましたし、軽音楽部という、ジャズの吹奏楽のようなテイストの部にも所属していました。時間があれば友人と旅行に行ったり、とても充実した学生生活を過ごしました。

初期研修の病院を福岡青洲会病院に決めたのはなぜですか。

私が重きを置いていたのは「2年間の初期研修を無事に終えることができるかどうか」という点です。というのも、大学の先輩方からお聞きする初期研修についての話がどれもこれも厳しく、「ひょっとしたら私はやっていけないかも」と不安になっていたからです。実際にいくつかの病院に見学に行ったのですが、現実は厳しいのだなと痛感していました。そんなときに福岡青洲会病院の見学に行くと、ほかの病院と比べて、働いている方が優しそうな印象でしたし、先輩研修医の方々からも「臨床だけでなく、自分次第で自主勉強の時間も取れる」と詳しく教えていただいたのが新鮮でした。また、自分のペースに合わせて「頑張るとき」と「抜くとき」といったメリハリを調整しやすいといった点でも、私の納得いく初期研修ができるのは福岡青洲会病院だと強く思うようになり、当院に決めました。

初期研修が始まってからはイメージ通りでしたか。

ある意味、予想通りでした(笑)。ほとんど怒られることなく、とても主体的に、自由にさせていただけたことが印象深いです。指導医の先生方は「好きなことを何でもやっていい」というスタンスでしたが、困ったとき、判断に迷うときなどはもちろん相談に乗っていただけました。私が担当の患者さんを持ち、対応することになったとき、多少の不安がありましたが、指導医の先生方への報告とフィードバックはいつでもできる環境でしたので、不安以上に「もっと手を動かしていたい」といつもよりも意欲的になっていたことを今も忘れられません。一方で、自分で学ぶことも大事にしていました。根拠のない治療は患者さんにとって良くないからです。きちんとできるようにと心がけたことで、的を外さない基本的な処置や治療を自分なりに実践して繰り返したことが今の判断の礎にもなっています。「学ぶ」と「真似る」の反復の中で「正しい型を自分のものにする」ことが大事だと気づきました。教科書通りに治療を行っていくことは地道ですが、とても重要です。やり続けるうちに目の前の患者さんが良くなっていく姿を体感していくと、自信にも繋がっていきました。

初期研修を振り返って、いかがですか。

2年間、本当にあっという間に過ぎていきました。私はご指導いただく先生方の後ろをひよこのようにずっとついて回るタイプで、あまりに付きまといすぎて、「今からトイレなんだけど」と言われるほど、先生方に寄り添って研修していました(笑)。

総合診療プログラムを専攻しようと決めたのはいつですか。

学生に実習で回った糖尿病内科と、初期研修での救急科が楽しかったので、その2つのどちらかに行こうかなと思っていました。初期研修2年目の夏が次の行き先を決める段階なのですが、「救急に行きます」と救急の先生にお話しをしました。でもタイミング良く、救急を題材にした有名なドラマを見てしまい、「この世界は私には無理だ」と感じていたところ、当院の総合内科の先生から「永田さんは救急ではなく、総合内科だよ。初期研修の最初の頃からそう思っていたよ」と言われたんです。当院の総合診療プログラムであれば救急も学べますし、総合内科に惹かれていきました。そして専攻医として改めて当院に入職したとき、ご指導いただいている先生からは「ようこそ」ではなく、「僕はここに来るものだと信じていたよ」と当然のように迎えていただきました(笑)。

専攻医研修の3年目が過ぎようとしていますが、いかがですか。

結果的には成長しながら進んでいます。ただ道のりは平坦ではありませんでした。大変なことだらけでしたし、失敗も数限りなくありました。でも、僻地医療での経験は今に活かされていると感じます。僻地ではどうしても一人で何役もしないといけないので、生活の中心が患者さんとの向き合い一色となります。終業後に帰宅してもずっと患者さんのことを考えてしまい、頭の中が仕事で埋め尽くされていました。その解決は自らのリセットでしたね。仕事だけはない、自分自身が充実した生活を送ってこその人生ですし、スポーツなどでリフレッシュしながら頭をクリアにすることの大切さを学びました。そういう気分のオンオフをすることで、どのような場面に遭遇しても臨機応変に対応できる柔軟さを生むのだと分かりました。

専攻医研修で特に勉強になっていることを教えてください。

患者さんやスタッフとのコミュニケーションの取り方でしょうか。私は小さい頃から人見知りで、人と目を合わせて話すことができず、親からも「人と話すときは目を合わせて話しなさい」と言われていたのですが、どんなに頑張っても自分が涙目になるような子どもでした。何とか克服したいと思っていましたが、大学時代の部活動で交友関係を持てるようになり、初期研修医になってからは患者さんの生活まで深く踏み込んで、気持ちに共感したり、どうしたらいい方向に向かうのか、チームの皆で一緒になって考えるという経験を積んできました。そういう環境は大事ですね。そして今は長崎県の平戸市で院外研修をしていますが、ここで出会った患者さんとの関わりも私を変えてくれました。現地の方々がご当地の差し入れを直接くださったりして、いい意味での距離感を詰められた結果、コミュニケーション能力のレベルが随分と上がったなと実感しています。

永田先生の写真

専攻医研修で楽しかったことはどのようなことですか。

患者さんが良くなっていく過程を見るのは楽しいというより、嬉しいですね。私が治療などで関わった方で、病院に来られたときは歩けなかった方がみるみる元気になり、元気一杯になって退院される姿を何度も見るうちに嬉しくなります。

専攻医研修で辛いことはどのようなことですか。

患者さんがお亡くなりになるのは慣れないですし、辛いです。こちらが精一杯の治療をし、つい先ほどまで「先生、頑張るよ」とお話しをしていても、天寿には勝てず、老衰などで天国に行かれる方に向き合うこともよくあります。ご家族の皆さんが一斉に悲しむ姿を目にすることもあり、最後のお別れはいつまで経っても慣れないですね。指導医の先生方からは「あまり感情移入するのは良くない。状況を俯瞰して診ていくように」と言われますし、その視点から得られるマインドフルネスが必要だと感じています。悲しいという感情移入をついしてしまうと、患者さんの本当に深く、辛いところまで共感するので、私自身がダメージを受けることもありましたが、様々な経験を積むことによって、今は自分自身をうまくコントロールすることに繋がっています。

指導医の先生方のご指導はいかがですか。

まずは自由にさせていただいています。でも放任ではなく、困ったときには相談に乗ってくださいます。その点はとても心強いですし、安心して進められています。患者さんのご家族への対応や、病院全体での取り組みに私が主体的に動く必要があるときでも、必ずバックアップしてくださいます。特に科をまたぐ場合やコメディカルを含めた協議が必要なときなど、重要な局面では面談に同席いただき、的確にフォローいただくことで事なきを得たこともあり、とても感謝しています。専攻医が一人で抱えることもなく、相談できる環境があり、患者さんのご意向を病院全体できちんと受け止めながら課題を解決できる点は当院の素敵なところだと感じます。ワンチームですね。

初期研修医の指導はどのようにしていらっしゃいますか。

私は初期研修のときに関わってきた全ての処置について、忘れないように、またアーカイブとして残す意味でも独自の「マニュアル手帳」を作っていました。その手帳を専攻医になった今でも活用していますし、この手帳がなかったら、「今すぐ当直だ」というときの対応に困っているかもしれません。私の医師としての情報が詰まった手帳です。今の初期研修医も私のマニュアル手帳を参考にしています。この手帳と近しい症例の患者さんが来て、すぐに対応できる指導医がいないときでも、初期研修医がこの手帳をもとに正しい初期治療を行って、別の科の先生に引き継げるようになっています。今も私が手帳を見ていると、初期研修医が「先生、その手帳をメモらせてください」と言ってきます(笑)。初期研修医が私を頼ってくれているのは嬉しいですが、これも初期研修のときから当院にお世話になって、多くの時間を費やし、院内の状況を色々と把握しているからこそのことだと思っています。でも、今の初期研修医はしっかりしていて、性格もとても良いです。私が当直や救急対応などで忙しくなると、それを見かねてなのか、「先生、忙しそうだから、私たちも手伝いますよ。こちらの患者さんは私たちで診ておきますね」と言ってくれたりもします。初期研修医も自らやろうという姿勢を持っていますね。私は指導する立場ですが、実は私自身も彼らに助けられています。

コメディカルのスタッフとのコミュニケーションはいかがですか。

皆さん、フランクに接してくださいます。ちょっとしたことでも報告や相談し合える、距離感の近い関係です。以前、「まぶたが落ちてくる」との訴えで救急外来に来られた患者さんがいました。瞳孔の左右差があり、脳梗塞の疑いでMRI検査を行いましたが、早めの初見だけでは少し判断しづらく、あとから別の反応を示す可能性も考慮し、その晩は様子を見て、次の日にもう一度検査するために入院していただくことにしました。そうしたら、その晩にコメディカルの方から「患者さんが目が痛いと言っています」と電話があったんです。その反応では診断も変わるので、急いで診察したところ、緑内障の発作であることが判明しました。緊急手術をしないと失明の可能性もあるので、急いで大学病院に搬送した結果、手術が成功し、患者さんの大事な目を失わずに済んだということがありました。間違えた診断や思い込み、医師とコメディカルの信頼関係がない状況であれば、痛み止めを処方しただけでご帰宅いただいたかもしれません。懸案事項については些細なことでもタイムリーに相談できる風通しの良い関係が命を救えたと思います。医師だけで患者さん一人に付きっきりになることは難しいですし、看護師さん、リハビリのスタッフ、薬剤師さんなど、多くの人の目が入って得られる情報をもとに、起きている事象の中から見逃さないポイントを拾い上げるのが医師の仕事なのかなと考えています。

今後のご予定をお聞かせください。

総合診療の分野については当院でかなり勉強させていただき、ある程度できるようになってきました。この先は「この分野だと胸を張れる」といった少し踏み込んだサブスペシャルティ領域の専門分野を新たに勉強していきたいです。ただ、色々なことに興味がありすぎて、かなり悩んでいます。福岡出身ですので、福岡の病院を第一に想定していますが、興味のある分野であれば、エリアを問わずに学びに行きたいです。

専門医制度についてのご意見をお願いします。

総合診療専門医取得後のキャリアですが、これは内科専門医の取得とは別なので、呼吸器内科や神経内科などのステップに進むことは現状できません。そういった内科のサブスペシャルティ領域を勉強できるようになる道筋があれば、初期研修医の皆さんも総合診療科への興味が増して、勉強してみようかなと考える方が増えてくるのではないかと思います。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

総合診療専門医を目指すことはご自身の人間力が増すことに繋がります。総合診療専門プログラムでは多くの患者さんに会いますが、これが一番の基礎です。「ドクターG」のようなイメージを持っていると、少し難しいなと感じるかもしれませんが、患者さんに接し続けるうちに色々な気づきがあります。その一歩一歩を大事にしながら立ち止まり、振り返って判断して、また前に進めるという繰り返しをご自身が納得いくまで継続することができれば、どの診療科に進んだとしてもいい医師になれるのではないでしょうか。当院の見学では世の中の状況も考え、オンラインを活用した面談も可能ですし、もし見学にいらしていただけるなら、医師を含めた多くの仲間が和気あいあいと楽しい雰囲気で過ごしていることを感じていただけるはずです。私は熱意しか伝えられないかもしれませんが、お時間がありましたら、福岡青洲会病院に見学にいらしてください。

永田先生の写真

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