専門研修インタビュー

2022-06-01

浜松医科大学医学部附属病院(静岡県) 専攻医 森田修平先生(総合診療科) (2022年)

浜松医科大学医学部附属病院(静岡県)の専攻医、森田修平先生(総合診療科)に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2022年に収録したものです。

浜松医科大学医学部附属病院

〒431-3192
静岡県浜松市東区半田山1-20-1
TEL:053-435-2111
FAX:053-435-2153
病院URL:https://www.hama-med.ac.jp/hos/

森田先生の近影

名前 森田 修平 専攻医
出身地・出身大学 / 医師免許取得年度 埼玉県深谷市・ 滋賀医科大学 / 2019年
初期研修施設 倉敷中央病院
専攻医研修 総合診療専門医/新・家庭医療専門医

医師を目指したきっかけをお聞かせください。

私は薬学部とその修士課程を修了後、実験用の試薬などのバイオサイエンス系の商材を扱っている企業に勤務していました。薬学部や修士課程では神経難病の研究をしていたので、その知識を活かせる企業に就職し、医師の先生方に知識をお伝えしたり、試薬を販売するバックアップに遣り甲斐がありつつも、知識を現場で全て活かすことができない物足りなさがあったんですね。そういうときに医学部編入制度を知り、医師として現場に出て、これまで培ってきた知識や技能を活かしたいと思いました。就職して4年目でしたが、まだ20代なのだからと一念発起して、医学部を再受験しました。受かるかどうかは分からなかったのですが、挑戦したところ、合格することができました。

学生生活はいかがでしたか。

2年次の後期に編入したのですが、編入同期の中には私よりも年上の人もいましたし、私と同じように薬学部出身者もいました。普通に入学してきた同級生とは境遇が違いましたが、編入同期が17人もいたので、アウェイ感はなかったです。私は薬剤師免許を持っていたものの、薬剤師として働いたことはなかったので、調剤薬局でアルバイトをすることにしたんです。薬剤師のアルバイト代は家庭教師並みに良かったので、生活費を稼ぐことと薬剤師としての職能を伸ばすことの一石二鳥になりました(笑)。精神科がすぐ隣にある調剤薬局でしたので、貴重な体験をさせていただきました。部活動には入らなかったのですが、もともとテニスが好きなので、大学のコートを借りてテニスをしたり、かつて取り組んでいた基礎研究に関連するアルツハイマー病の研究室を訪問して研究をさせていただく機会もありました。また大学が琵琶湖のすぐそばでしたので、ロードバイクを始め、今も趣味の一つとなっています。2度目の大学生活でしたが、本当に楽しかったです。

初期研修の病院を倉敷中央病院に決めたのはなぜですか。

大学卒業の頃は循環器内科医に憧れ、何となく目指していました。私は滋賀出身ではないですし、場所にこだわりがないので、全国的にも強い循環器科がある倉敷中央病院に見学に行ったところ、救急が充実していて、基本的に全ての診療科が揃っており、全国から初期研修医が集まることに惹かれました。経験できる症例が多く、それを同期と共有でき、手厚い研修が受けられるのは規模が大きい病院の良さですね。私の学年の同期は27人いました。

総合診療科をいつから志望されていたのですか。

気づいたら、志望していました(笑)。初期研修1年目の前半に循環器内科と総合診療科を回ったのですが、総合診療科には一筋縄ではいかない患者さんばかりがいらっしゃいました。国家試験のために学んだ治療法では70歳までに年齢が限られていたり、80歳以上の方にはエビデンスがなかったり、その治療を適応するかどうかはその患者さん次第だったり、その場の判断だったりという、教科書通りにはいかない治療があることに驚きました。初期研修2年目にもう一度、総合診療科を回ったときは新型コロナウイルスが流行り始めた時期でした。そこで、患者さんのベッドサイドに毎日伺うと、ご自宅の盆栽の面倒を見ることができるのがその患者さんしかいないのに一時退院を禁止されていたり、身体的には元気になって退院できる患者さんなのに社会的にはできないなどのお話を聞き、総合診療や家庭医療の考え方を学びたいと思うようになりました。医学的なところではなく、社会的なことや患者さんの思い、趣味、家族構成などを全部引っくるめて、ケースバイケースで答えを出していくのは難しいけれど、遣り甲斐がありそうでした。語弊があるかもしれませんが、循環器内科は詰まった冠動脈を通すことで、心不全や心筋梗塞の治療をする道筋や答えをある程度は出せるけれども、そうではない医学もあるのではないかということですね。私は会社員時代にお客様対応をする中で製品の仕様を説明したり、クレームをお聞きしたりしていましたが、それは複雑な症例と似ています。それぞれの思いを汲み取って解決するアプローチ方法に共通点があり、汗をかきながら道筋を立てたり、多職種連携をする総合診療科での仕事は過去の私の仕事とリンクするんです。循環器内科が嫌だということではなく、より新しい領域を見つけ、面白いと感じたので、総合診療科を志望しました。

初期研修を振り返って、いかがですか。

色々な科を回りましたが、どの科でも高度な医療をしており、全ての経験が新しくて面白かったです。教えてくださる指導医の先生方も優しくて有り難かったですね。一番大きかったのは救急科での日中の当番や当直、準夜勤で、救急科の先生に臨床推論などを教えていただける教育体制があったことです。様々な志のある同期に恵まれて、一緒にロードバイクで出かける友人もできましたし、とても充実していました。また、倉敷という街も良かったです。周辺を含めて観光地が多く、いい思い出となっています。

専攻医研修として、浜松医科大学総合診療プログラム(静岡家庭医養成プログラム:SFM)を選んだのはどうしてですか。

初期研修1年目の後半に総合診療を専攻したいと決めたのですが、新型コロナウイルスが流行り始めたこともあり、現地での見学がなくなり、オンライン説明会が主流になりました。それはむしろ有り難くて、倉敷にいながら5、6カ所以上のオンライン説明会に参加し、情報収集を始めました。SFMを知ったのは探し始めてからは後半の時期で、2年目の5月ぐらいです。説明会を経て、見学に行ったのですが、とてもバランスの良い研修をしていると思いました。全国的に見ても、指導医や専攻医の数が多く、プログラムの内容も充実しています。見学でほかよりもすごいと感じたのが外来プリセプティングです。これは専攻医が患者さんを診たら、その患者さん一人一人について、後ろに控えている指導医に相談できるシステムで、その指導内容も多岐に渡っており、指導医の先生方の引き出しが豊富で、家庭医療的な視点から患者さんの社会的背景も含めて、指導が行き届いているという印象を受けました。見学で垣間見えた指導医の先生方の優しさや専攻医を守ってくれる風土があるので、安心して研修できそうでしたね。また、私は初期研修が始まるときに結婚していたのですが、妻も「静岡は気候がとても良くて、住みやすそうだ」と賛成してくれました。住みやすいという意味では4年間のプログラムの間、引っ越しをしなくていいというのも後押ししてくれた理由の一つになりました。

現在はどのような専攻医研修をなさっているのですか。

専攻医研修2年目は外部の病院でのローテートがメインで、現在は菊川市立総合病院の産婦人科を回っています。産婦人科を回れるのはSFMの特徴の一つで、婦人科の先生がされている診察や妊婦健診を週に3.5日、担当させていただいています。木曜日の午後はグランドラウンドといって、専攻医が振り返りの発表をしたり、外部の講師からレクチャーを受けたりするプログラム内での研修会があります。金曜日はOne-day Backです。専攻医の所属するクリニックか、菊川市家庭医療センターの外来で小児へのワクチン接種、訪問診療への同行、発熱外来を担当します。私の場合は2年目の5月で産婦人科を終え、6月からは磐田市立総合病院の小児科を回り、そのあとは消化器内科を回る予定となっています。

専攻医研修で特に勉強になっていることを教えてください。

週に1回は必ず外来がありますので、週に3.5日の外部の病院での研修で学んだことを自分の所属するクリニックに持ち帰り、患者さんにすぐに還元できることです。リアルタイムで実践できることがいいですね。逆に、クリニックでの研修で疑問に思ったことを専門研修で回っている病院の先生に尋ねて、次の勉強に繋げられることもあります。初期研修では指導医の先生に言われるがまま、漠然とこなすこともありましたが、専攻医研修は自分なりの臨床疑問や知りたいこと、学びたいことを頭に入れつつ研修し、知識を身につけられるところが初期研修とは違うなと感じています。

専攻医研修で遣り甲斐を感じるのはどのようなときですか。

慢性期の患者さんに対して、救急のようにすぐに何かをするのではなく、次の外来までに疾患や診断、治療について予習したことが外来で活かせて、患者さんのためになったり、「ありがとう」という言葉をいただくと、遣り甲斐を感じます。また、家庭医療センター内に医師が数人いるのですが、「先生の外来を受診したいです」と顧客のようなご指名をいただくのも嬉しいですね(笑)。私だけでなく、「口コミで良い評判を聞いたから」や「先生方が話を聞いてくれるから」など、家庭医療センターを頼っていただけるのもとても有り難いです。

森田先生の写真

専攻医研修で辛いことはどのようなことですか。

今のところ、外の病院を回ることが大半なので、回っている科の雰囲気ややり方に慣れたり、馴染むまでが辛いですね。回り始めて1週間か2週間は頑張らないといけないなと感じます。初期研修はずっと同じ病院にいますが、専攻医研修では2、3カ所の病院やクリニックに行くので、カルテの使い方が少しずつ違ったりするのが医学的な部分ではないところでの辛さがあります。

指導医の先生方のご指導はいかがですか。

それぞれ得意分野が違うのですが、家庭医療というバックグラウンドが同じなので、一緒に考えてくださるという姿勢を共通して持たれています。私が予習して、「こういう治療や治療薬はどうですか」と聞くと、否定から入る先生は全くおられません。皆さんが「どうしてそう考えたの」と聞いてくださったり、一緒に考えたうえで優しく教えてくださいます。SFMは指導医の先生方が多く、地理的に離れている先生とは直接お会いする機会がなく、オンラインでしかお会いしていないのが残念なのですが、オンラインでも相談や発表の練習はできるので、物理的な距離があったとしても、相談の距離は近く、恵まれた環境だと思います。

カンファレンスはいかがですか。

大きいカンファレンスは木曜日午後のグランドラウンドです。これはSFMに所属する全員が参加し、専攻医が印象に残った症例を発表するものです。症例に対して勉強したことを踏まえ、発表の準備の段階から指導医の先生に相談に乗ってもらえるので、発表自体がためになりますし、発表後も責められることがありません。指導にあたっては「教育的に」というポリシーがあるようで、遠隔地にいる先生からオンラインでアドバイスをいただくこともあります。また、レクチャーも勉強になります。これは最近ようやく現地に集まってできるようになり、普段は会わない仲間と顔を合わせる機会になって良かったです。それから、小さいカンファレンスとしては外来の日には必ずクリニック内で振り返りをしています。その日、外来で診た患者さんで印象に残った方をピックアップし、「この患者さんにこのようにアセスメントしたのはなぜだろう」「この方法で良かったのかな」「このやり方が分からないから調べてみよう」など、指導医の先生とディスカッションします。そのときに解決する問題もあるし、自分の宿題や課題となって持ち帰り、次の外来に備えて予習して持っていくというサイクルになることもあります。

初期研修医の指導はどのようにしていらっしゃいますか。

地域医療の研修で、浜松医科大学医学部附属病院、中東遠総合医療センター、磐田市立総合病院などの2年目の初期研修医が回ってきます。2年目になると医学的な考え方やカルテの書き方はできていますが、大きい病院だと経験できないような虫刺されや湿疹、救急外来では診ることのない陥入爪や不眠のような症状を初めて診るので新鮮だと言われます。私もその気持ちはよく分かるので、夕方の振り返りの時間に一緒に考えたり、私がどういう調べ方をしたのかなどをアドバイスしたりしています。

コメディカルのスタッフとのコミュニケーションはいかがですか。

皆さん、とても優しいです。去年は1年目だったので、診療スピードが遅かったり、カルテの扱いにも慣れておらず、覚束ないところがあったのですが、それを分かってくださっていて、温かい目で待ってくださるんです。まだ専攻医ということも理解してくださったうえで、かつ医師としても尊重してくださり、もちろん家庭医療そのものへのご理解もあるので、助かっています。特に看護師の方々は患者さんのご家族のフォローや地域の介護サービスとの橋渡しなどに詳しく、待合室でご家族から聞き取った情報をあらかじめ教えてくださるので、一緒に診療しているという実感があります。

今後のご予定をお聞かせください。

4年間のプログラムで家庭医の専門医資格を取れるのですが、そのあとはクリニックベースでしっかり働けるところに勤務したいです。また、私は薬剤師出身なので、より深めて勉強していきたいスペシャルインタレストとしては在宅医療、緩和ケア、漢方医学などがあります。チャンスがあれば、専門医資格取得まではいかなくても、これらに力を入れているところでプラスアルファの研修をさせていただくのもいいなと思っています。それからSFMに拠点を置き、指導医として勤務するのも選択肢の一つです。地域としても住みやすいですし、医師が求められている医療過疎地域でもありますので、遣り甲斐がありそうです。

専門医制度についてのご意見をお願いします。

私は専門医機構と日本プライマリ・ケア連合学会の専門医資格を両立させるプログラムを専攻していますが、前の年やさらにその前の年の先生方とは回るべき診療科の縛りが強くなったり、緩くなったりという違いがあります。3学年上の先生方とは研修手帳の方法も全く違うので、自分がすべきことを把握するのが大変です。それを何とかこなしている状況なので、毎年ある変遷が早く落ち着くことがこれから家庭医を目指す方々にとって大切なことだと思います。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

このSFMというプログラムは専攻医や指導医が揃っており、大学、県、市町が連携する全国でも珍しい体制です。そのようなバックアップや後ろ盾がある中で安心して研修できるのはいいですし、地域から歓迎されているということも常々感じます。クリニックベースでの家庭医療をしっかり学びたい方には最適のプログラムですね。ただ、専攻医研修のプログラムにはここにないものを持っているところもありましたし、私もいくつか見学に行った中でここを選びました。どういった点を大事にして選ぶのかは個人次第ですし、その人のバックグラウンドによってはここではないプログラムの方が魅力的かもしれません。時間やコロナ禍での制約もありますが、まずはオンライン説明会などで話を聞いて情報収集し、現場で人に会って、フィーリングが自分にマッチするのか、安心して働ける環境なのかを自分の目で確かめましょう。

森田先生の写真

Related

関連コンテンツ