専門研修インタビュー

2023-01-01

武蔵野赤十字病院(東京都) 指導医(専門研修) 鈴木秀鷹先生 (2023年)

武蔵野赤十字病院(東京都)の指導医、鈴木秀鷹先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2023年に収録したものです。

武蔵野赤十字病院

〒180-8610
東京都武蔵野市境南町1-26-1
TEL:0422-32-3111
FAX:0422-32-3525
病院URL:https://www.musashino.jrc.or.jp/

名前 鈴木 秀鷹
救命救急科 指導医

職歴経歴 1986年に宮城県仙台市に生まれる。2012年に獨協医科大学を卒業後、岩手県立中央病院で初期研修を行う。2014年に水戸協同病院総合診療科で後期研修を行う。2016年に武蔵野赤十字病院救命救急科で後期研修を行う。2017年に武蔵野赤十字病院救命救急科に勤務する。
日本救急医学会救急科専門医、日本内科学会認定内科医、日本集中治療医学会集中治療専門医、迷走神経刺激療法に関わる講習会受講、医師の臨床研修に係る指導医講習会修了、がん診療に携わる医師に対する緩和ケア研修会修了、ICLS WS director、JMECCディレクター、FCCSコース修了など。

武蔵野赤十字病院の特徴をお聞かせください。

地域の要となる地域医療支援病院として、二次救急、三次救急の患者さんを広く受け入れています。二次医療圏としては北多摩南部に属していますが、三次救急では北多摩南部を中心として、北多摩北部や杉並区、練馬区、世田谷区などの他医療圏からも来院されるため、都内の救命救急センターでも有数の救急車搬送台数となっており、症例数も非常に豊富です。積極的に応需しているがゆえに、どうしても入院患者さんが増え、ベッドが足りなくなることもあります。しかし重症病棟、救急病棟を出たあとの継続加療を内科や外科などの医師が行うことで、うまく調整できています。泉並木院長も診療科間の垣根をなくし、横の繋がりを持とうと強調しているので、多くの診療科が協力し合っている病院です。

鈴木先生がいらっしゃる救命救急科の特徴もお聞かせください。

三次救急を中心とした医療を行っていますが、二次救急のバックアップのようなこともしています。救急外来から入院管理まで一括して担当しているのが大きな特徴ですので、救急外来で診た症例をそのまま集中治療室などで引き続き診療できます。また、院内急変への対応も救命救急科で一手に引き受けています。救命救急科の症例のうち、30%ほどが救急外来で他科の医師からの要請があったもので、救命救急科で引き取って重症管理をし、他科にお戻しするといった形で院内の安全に寄与しています。近年ではドクターカーも導入し、プレホスピタルケアにも力を入れていますので、働ける場所は非常に多いですね。

武蔵野赤十字病院の救急科専門研修プログラムの特徴をお聞かせください。

ほかの病院の救急科専門研修プログラムと比べて、目新しい内容はありません。ただ当院は三次救急に特化していること、専門医試験の登録に必要な症例数も半年ほどで満たすだけの症例数があることが特徴でしょうか。手技の取り合いも全く起きていませんので、研鑽しやすい環境です。ただ、地域の要として、できるだけ断らない救急をしていますと、高齢化の影響は避けられず、全身合併症を有した患者さんの全身管理が中心となります。かつての救急医療の中心は外傷診療だったようですが、現在ではどの救命救急センターでも外傷診療より高齢者の内科的な疾患がメインになっています。成熟した先進国では避けられないことかもしれませんが、当院では高齢者の呼吸不全、敗血性ショック、脳卒中、脳卒中後の痙攣といった内科的な疾患を診つつ、時おり外傷が入ってきます。そのため、全身管理ができないと、最終的なアウトカムに繋げられないので、そういう症例を多く経験できることは勉強になります。おそらく集中治療室に入る内科的な疾患はほとんど救命救急科でカバーしていますので、経験できない疾患はないですね。その意味で強い救急だと思います。それから院内急変にも対応していますので、特殊な環境下での急変対応もできますし、エクモのような補助循環も専攻医に積極的に取り組ませています。また日本赤十字社の病院ですので、災害医療に対する考え方も醸成されます。

院外の研修先もありますね。

新制度での専攻医研修が始まった際に、日本医科大学高度救命救急センターと施設間相互連携関係を維持し、日本医科大学千葉北総病院などの施設との相互連携関係がありますので、ローテートすることが可能です。

武蔵野赤十字病院の救命救急科で専門研修をされた先生方はどのようなキャリアアップをされていますか。

当院にスタッフとして残った人、他院の救急科に入職した人、外科系に進むために外科研修を始めた人などがいます。

カンファレンスについて、お聞かせください。

病棟患者さんについての一般的なカンファレンス、ICUカンファレンス、緊急で入院された患者さんについて、全員でチェックするためのカンファレンス、ICUの患者さんについて看護師、理学療法士、薬剤師などと行う多職種カンファレンスなどがあります。勉強的な意味合いですと、メジャージャーナルを毎月チェックするジャーナルチェック、英語の教科書の輪読会もあります。また最近ではリサーチクエスチョンを研究に繋げるために公衆衛生の大学院を修了された先生をお招きし、リサーチカンファレンスを行っています。

専攻医も発言の機会が多いですか。

多いですね。全てのカンファレンスは専攻医のために開催しているようなものです(笑)。

女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。

院内保育所や育児短時間勤務制度など、ほかの病院と同様な福利厚生は完備されています。救命救急科には女性医師が一人だけですし、子育て世代ではないので、どれだけ働きやすい病院なのかは分からないですが、私自身は子どもが熱を出したときなどは普通に休めています。救命救急科はシフト制なのがいいですね。一人一人の存在は大事ですが、一人が欠けたからといって診療停止することはないので、誰かが都合が悪くなって急遽、休まないといけないというときでも十分にバックアップできる体制になっています。

先生の研修医時代はいかがでしたか。

私は岩手県立中央病院で初期研修を行いました。母校の大学病院は良くも悪くも大学の延長のような感じがして、知っている先輩方が大勢いる風通しの良さはありましたが、一度しかない人生なので、ほかの地域の市中病院で研修したいと思っていました。全国の病院に見学に行きましたが、最終的にはマッチングの神様が岩手県立中央病院に決めてくれました(笑)。岩手県立中央病院は地域の砦のような存在であることが武蔵野赤十字病院に似ています。岩手県には岩手医科大学附属病院もありますが、沿岸部から内陸部まで県立病院が10カ所もあり、グループで頑張っているところが良かったです。外科系を回っているときは手術後の患者さんの縫合のために週末に出勤するのも当たり前でしたし、同期とどこかに遊びに行くということもなかったですね。

初期研修のときはどの診療科を志望していたのですか。

初期研修のマッチングの頃は病理医志望で、診断病理をしていきたいと全面に打ち出して面接を受けていたので、少し変わった人だという扱いだったかもしれません(笑)。でも研修が始まってからは勉強するための研修ですので、忙しい診療科を選んで回っていました。

後期研修で水戸協同病院にいらしたのですね。

岩手県立中央病院では夜間当直がER体制だったこともあり、夜中にオンコールの上級医に電話しても「うちでは診ない」と言われると喪失感がありました。そこで自分が上級医になったときには「これは内科の病気だから、こっちで診るよ」と言えるようになりたいと思ったんです。「この先生に聞けば、この先の道が決まる」みたいな医師になりたくて、総合診療科を専攻したいと考え、水戸協同病院に行きました。水戸協同病院では内科の入院と言えば総合診療科が受け取るシステムになっており、1つのチームの中に肺炎、脳梗塞、敗血症、消化管出血といった疾患が並んでいましたが、それがおかしいものではなく、ホスピタリストのあり方を勉強できました。専門医が少なく、総合診療医は10人以上いる病院なので、病棟管理医である総合診療医が専門医からのコンサルトを受けたり、逆に専門医は病棟でのマイナートラブルなどから解放されて専門の業務に集中できるシステムは素晴らしいと感じていました。

武蔵野赤十字病院に勤務されるようになったきっかけはどういったものだったのですか。

水戸協同病院は二次救急の病院だったので、どうしても蘇生の限界が来てしまいます。そういうときに患者さんのご家族に「この状態は厳しいので、もう難しいと思います」と話をするわけですが、本当に限界まで頑張ったのか、私自身がその先を知らないので判断できなかったんです。それで蘇生の限界はどこなのかを知るために、三次救急の救命救急センターがあり、病棟管理もできる病院を探した結果、武蔵野赤十字病院に出会い、救命救急科での後期研修を改めて始めることになりました。

専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

常に判断ができる医師になってほしいということと、全てに対して「どうぞ」と言えるようになってほしいです。救命救急科では院内急変を担当しているので、ラピッドレスポンスシステムをかなり前から導入しています。これは例えば外科に入院している患者さんが呼吸状態が悪くなったり、血圧が下がったりしたときに、看護師が主治医ではなく、救命救急科に連絡をするというものです。そういう連絡を受けたときに根掘り葉掘り聞くのではなく、「分かりました。とりあえず行きます」といったフットワークの軽さを大事にしてほしいですね。それによって信頼関係が培われるし、少しの異変でも呼んでもらえるようになれば患者さんが救命される可能性が上がります。そして外からの患者さん、中からの患者さんやコメディカルスタッフに対しても接遇的な面できちんと対応することも指導しています。もちろん臨床的な内容は文献の考察を踏まえたフィードバックをしています。さらに、当院は近年ICU領域で注目されている神経集中治療に力を入れているので、その指導も行っています。

今の専攻医を見て、いかがですか。

当院の救命救急科は医師数が変動しているんです。私が来た頃は少なかったのですが、今はかなり増えてきました。どのメンバーもこの救命救急科のシステムが好きで働いているので、とても頑張っていると思います。

現在の臨床研修制度について、感想をお聞かせください。

私が初期研修をした病院は制度開始前からスーパーローテートをしていた病院でしたので、不思議な感じもなく初期研修をすることができました。初期研修ではやはりその期間内に何を知らないといけないのかを明確にする必要がありますね。初期研修はプライマリケアのできる医師の育成に注力すべきであり、例えばカテーテルなどの専門的な内容を学ばせることではないと思っています。

現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。

内科は大きく変わりましたが、救急は登録の方法が変わった程度でした。内科はJ-OSLERがとても煩雑で難しいと聞きますが、そういった登録システムがあるのであれば、その症例から学んだことをいかに外に出せるかということが大事です。登録自体は締め切り間際に一気に送っているのでしょうが、今後はそれをいかに安定的に登録し、登録リストから例えば学会の症例報告を出すといった活用ができるようになれば、そこまで苦にはならないのではないかと考えています。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

三次救急の病院で救命救急医をしたい人はまずどんなときも腕っぷしと言いますか、技術力が確保されていないといけません。そのため、ある程度のボリュームのある病院を探しましょう。ただ、それだけでなく、一人の患者さんがどういった転帰をたどるのかといったところまでを診られる病院が望ましいです。当院の救命救急科では初療から集中治療管理、その後のバックアップ病棟での管理も担当していますので、その環境は十分にあります。

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