専門研修インタビュー

2024-03-01

相澤病院(長野県) 指導医(専門研修) 白戸康介先生 (2024年)

相澤病院(長野県)の指導医、白戸康介先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2024年に収録したものです。

相澤病院

〒390-8510
長野県松本市本庄2-5-1
TEL:0263-33-8600
FAX:0263-32-6763
病院URL:https://aizawahospital.jp/

白戸先生の近影

名前 白戸(しろと) 康介(こうすけ)
相澤病院 救急科医長 指導医

職歴経歴 1986年に埼玉県所沢市に生まれる。2012年に群馬大学を卒業後、相澤病院で初期研修を行う。2014年に前橋赤十字病院集中治療科救急科で後期研修を行う。2017年に相澤病院救急科に勤務する。2019年に東京都立小児総合医療センター救急科に6カ月の国内留学を行う。その後、相澤病院に戻り、現在は相澤病院救急科医長を務めている。
資格 日本救急医学会救急科専門医、日本集中治療医学会集中治療科専門医、日本DMAT隊員、統括DMAT隊員など。

相澤病院の特徴をお聞かせください。

 市中病院であって、地方都市の病院であって、中規模病院であること、救命救急センターが併設されていることが特徴です。市中病院であるということは医局人事で動いていない医師が多いということであり、それゆえに診療科間の垣根が低くて、他科への相談がしやすいです。
地方都市の病院という点では小児から超高齢と言われる90歳過ぎの方々のバランスが標準的です。何を標準とするかは難しいのですが、都心部だと若年層、地方だと高齢者が多くなりますが、当院はそのバランスが中ほどだということです。
それから専門性ですね。当院にはジェネラルな医療も要求されますが、専門性の高いスペシャルな医療も要求されます。都会は病院数が多く、専門性で細分化されていますが、この地域は都会ではなく、かと言って田舎というわけでもないので、ジェネラル、スペシャルの両方の医療を要求され、そのバランスもいいです。
中規模病院であることに関しては大規模病院のように全科が揃っているわけではありません。皮膚科や血液内科がないのが弱点ですが、総合内科がそこを補うように働いています。そして救命救急センターを併設していますので、重症の患者さんを診ていることも特徴です。

白戸先生がいらっしゃる救急科の特徴もお聞かせください。

 専攻医4人を含め、13人の医師がいます。長野県では信州大学医学部附属病院と並ぶほどの規模ではないでしょうか。上級医の私が言うのもおかしいですが、上級医と専攻医の仲がいいということが特徴です(笑)。飲み会などもありますし、とにかくホワイトで、ブラックな要素がありません。救命救急センターには「何か分からないけど、怒られる」みたいな、怖い上級医がいるイメージがありますが、当科には指導はしても、理不尽なことで怒る上級医はいません。
勤務体制は9時から17時30分と、17時30分から翌日9時までの2交代制です。8時間組か、16時間組かしかいませんので、24時間や36時間続けて働くことはありません。その分、夜は集中的に働かないといけないのですが、オンオフの区別がつけやすいです。2交代制ですので、引き継ぎは積極的に行っています。
一般的に若い医師は自分の勤務時間が終わってもなかなか患者さんを引き継ぐことができず、遅くまで残っていたりしますが、当科ではそういうことは全くありません。引き継ぎ後はすぐに帰れるようにしています。残業も少なく、私で月に20時間ぐらいですので、医師としてはかなり少ないと思います。そして待遇もいいです(笑)。夏休みは7日間ありますし、休み希望も通ります。

臨床面に関してはいかがですか。

 当院は救命救急センターですが、北米型のERなので、軽症から重症まで一切、断らず、全部を診るということを一つのポリシーにしています。年間35000人ほどの患者さんが来られ、6000台から7000台ほどの救急車での搬送がありますが、これは長野県内トップの実績です。
診療科も幅広く、内科や外科だけでなく、いわゆるマイナー科と言われるような皮膚や目、歯のトラブルを診たり、産婦人科、小児科といった特殊な診療科であっても、私たちが初期診療を行い、必要であれば専門科に相談するという形をとっています。診療科間の垣根が低いので相談しやすいですし、病院全体として救急をきちんとやっていこうという雰囲気なので、他科も相談を受けたときに嫌がるようなことがなく、協力的なので、救急科の医師としては恵まれた環境です。
ER以外の病棟の診療に関しては比較的新しく、6年ほど前から行っています。一般的な内科、外科の患者さんはそれぞれの科にお願いしていますが、集中治療が必要な重症患者さんは救急科で病棟管理を行っています。それから中毒症や、脳から出血していて、肺に損傷もあって、骨も折れているといった特殊な患者さんについても救急科が管理し、必要なときに脳神経外科、呼吸器外科、整形外科といった他科に相談しながら診療を進める体制を、救急科がイニシアティブをとって進めています。

相澤病院の救急専門研修プログラムの特徴をお聞かせください。

 長所と短所があります。長所は北米型ERの救急診療を学べることです。全科、軽症から重症まで、全年齢層の症例を診つつ、重症患者さんの一般的な病棟診療も勉強できます。
それからDMAT研修も積極的に行っています。能登半島地震にも専攻医が派遣されて活動してきましたし、専攻医でもDMAT隊員の資格が取れて、実災害の場で活動できます。
また3年間の専攻医研修中に希望に応じて1年間まで連携施設での院外研修が可能です。連携施設は県内外に13施設と豊富であり、給与などは研修先から支給される場合、当院から支給する場合など様々ですが決して無給勤務のような事にはなりません。そこで1年を使って、当院が苦手とする分野を学んでくることができるのも特徴ですね。
一方で、アカデミックなことにも重点を置いています。市中病院や大学病院に比べるとアカデミックな点が弱いとされていて、私自身もそれは良くないと感じています。そこで上級医が積極的に声をかけ、専攻医に学会での発表をやってもらうようにしています。アカデミックなことに対して食わず嫌いの専攻医もいますが、一度やってみると変わる人もいますので、強制的にやってもらっています(笑)。
3年間で地方会と総会の1回ずつの発表をしてもらいますが、希望があれば国際学会での発表をしたり、上級医も論文を手助けしています。当院はワーク・ライフ・バランスが良く、仕事以外の時間が充実していることも長所です。

では短所も聞かせていただけますか。

 重症に特化しているわけではないことです。これは北米型ERの長所の裏返しになりますが、重症の患者さんを診たいという人には合いません。重症患者さんには管を入れるなどの手技が多いので、そういうことを学ぶ機会は重症だけを診ている施設に比べると少ないです。
それからプレホスピタル活動も活発ではありません。当院はドクターヘリの基地病院ではないので、ドクターヘリやドクターカーで病院の外に飛び出していって、患者さんを助ける機会に乏しく、そういったことを積極的にやりたい人には良くないですね。
またワーク・ライフ・バランスの良さの裏返しとしてはたまに時間に縛られてハードにやりたい、病院にずっといたいと言う人がいますが、そういう人には難しい環境であることが挙げられます(笑)。

相澤病院の救急科で専門研修をされた先生方はどのようなキャリアアップをされていますか。

 色々な道がありますが、多いパターンとしては2つあります。1つは当院の救急科のスタッフとして残ること、もう1つは別の病院の救急科のスタッフになることです。
また、他科での専門研修に進む人もいます。救急科で専門研修を終えたあとで、次は外科で専攻医になり、外科も救急もできる医師になりたいという希望を持っていた人もいました。ほかにも国際支援に力を入れている病院に行き、国際支援活動をしている人もいます。

カンファレンスについて、お聞かせください。

 救急科全体の事務的な運営を相談するカンファレンスが月に1回ありますが、ほとんどの医師は休みなので、リモートで参加しています。臨床面のカンファレンスは水曜日の朝、病棟勤務の医師が全員集まり、1時間ほど行っています。この患者さんにはどういう治療方針で進めていくのか、つつがなく進められているのかなどを話し合い、30分ほどの余った時間に勉強会をしています。
それから毎朝の小規模なカンファレンスはその日の日勤と夜勤の医師だけで30分ほど行い、治療方針を確認しています。専攻医も上級医とこの場で治療方針を確認しながら進めています。

専攻医も発言の機会が多いですか。

 プレゼンテーションはもちろんしてもらいますし、質問や確認などもしています。難しいジャッジをするタイミングやプレゼンテーションの中で少し間違っていたり、不足している点については上級医が意見を言いますが、専攻医研修の終盤になってくると、その指摘ができる専攻医も増えてきますね。

女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。

 当院救急科は24時間勤務がなく、残業やオンコールもなく、大規模災害時に連絡が来るぐらいなので、非常に働きやすいと思います。
これまで後期研修中に3カ月ほどの育児休暇を取った男性医師がいますし、私も子どもが生まれた直後の1カ月は後期研修中ではなかったですし、育児休暇でもなかったのですが、有給休暇をしっかり使って、セミ育休のような形で週2回の勤務をしていました。
来年度、女性医師が入職するのですが、1人は小さいお子さんが2人いるので、夜勤免除となっています。日勤だけでも科全体の力になりますし、お子さんが育ったあとに夜勤もしたいということになれば、その希望に合わせて働けます。

先生はいつから救急科を目指していたのですか。

 高校生のときから浪人をしているときですね。人が何かの具合が悪くなったときに対応するのが医師だというイメージがあり、それを深掘りすると救急医だと思いました。
最初は漠然としたイメージでしたが、どういう医師になりたいのかを大学時代に真剣に考えたときに、やはり救急科が自分に合っていると気づきました。言い方が悪いのですが、「この科じゃない」「うちじゃない」と断るのではなく、まずはジェネラルに診られる医師になりたかったんです。総合内科でもジェネラルに診ますが、救急科にしたのは緊急対応ですね。あの切迫感が好きでもありました。適切な理由ではないのかもしれませんが、やっているときはストレスでも、終わったときには「やった感」があるのかなと感じていました。

救急対応時の写真

相澤病院で初期研修をされたのはどうしてですか。

 私は結構ハードにやりたかったし、できるだけ当直もしたくて、かつ給料の良さから選びました(笑)。
働き方改革以前の当院は週に2回以上の当直があり、全国的にも多い方でした。そういうハードな病院はほかにもありましたが、人気病院だと、私の大学の成績では受からないかもしれないとも考えたんです。
それで相澤病院に見学に行くと、初期研修医が前線に立って、自分で判断して、自分で診療できる環境でした。初期研修医が「こうしたい、いいか」と上級医に聞き、上級医が「いいぞ」「違う、こうしろ」と言っているところを見て、自分で考えることを繰り返せて、自主的に働けるのはいいなと思いました。

初期研修の思い出をお聞かせください。

 公表できない思い出も色々とあります(笑)。同期は10人少しで、全員が男性で、皆で寮生活をしました。合宿しているような感じでしたね。当時は麻雀も好きだったので、週に2回の当直、2回の飲み、2回の麻雀で1週間が埋まっていました(笑)。とても充実した毎日だったと思います。その同期の中の2人も今、当院の外科で働いています。

後期研修は前橋赤十字病院でされたのですね。

 私は重症だけを診るのが好きではなく、将来的には北米型ERで働き、ジェネラルに診たいというビジョンがありました。
とは言っても、いざというときに抜ける刀を持ちたいですし、その意味では重症の患者さんを集中的に診る期間があった方がパワーアップが早いのかなと思い、前橋赤十字病院を選びました。
前橋赤十字病院は三次救急の高度救命救急センターを持ち、重症の患者さんを中心に診療して、そこで集中治療も行っています。そういった環境で学んでみたいと考え、3年間お世話になりました。

後期研修はいかがでしたか。

 非常にハードでした。武闘派の上級医もいて、全くホワイトではありませんでしたね(笑)。教えてくれるというよりも機会を与えるから自分で勉強しろという感じで、勉強もしましたが、勤務もハードで、月に2、3日しか休みがなく、月に120時間ぐらい残業していました。妻から「ベッドに入ると2秒で寝ている」と言われるぐらい疲れ切っていました。
ただ、それは当時の話で、今は働き方改革もあり、休みも増えて、いい環境の病院になったそうです。

後期研修後に相澤病院に就職されたのですね。

 卒後6年目に相澤病院に戻りました。後期研修の3年間で重症患者さんを診る鍛錬ができたのですが、ERの鍛錬ができておらず、軽症や中等症の患者さんや小児を診る能力が低いと自分で感じていました。
そんなときに相澤病院の事務の方から「小児に関しては国内留学みたいな形でトレーニングをさせてあげられるから、是非来てくれないか」と声をかけていただいたんです。妻は松本市出身で、地元に戻りたいということでしたし、こんな若手に声をかけてくださって、しかもERのトレーニングができて、国内留学もさせていただけるというのは本当に有り難かったです。

それで東京都立小児総合医療センターへの国内留学ができたのですね。

 この半年間は抜群に良かったです。人気病院なのも納得ですね。患者さんの数も非常に多く、専門的な疾患の子どももいれば、一般的な疾患の子どももいて、ERはとても混んでいましたが、指導体制がいいので、「こなす」形にはなりません。メンターがしっかりついてくれて、「これは君の判断で入院、帰宅を決めていい」「この判断は君の能力ではまだ無理だ」と細かく言われるので、相談しながら診ていけます。この半年間でスキルがとても上がったと実感して、当院に戻ってきました。

相澤病院に戻ってこられて、いかがですか。

 目指している形で働けているなと思っています。以前から目指していた自分の診療能力が今できつつあるなという感じです。
職場の人間関係が良いのでストレスがなく、上とも下とも仲良く働いています。まだ中堅レベルではありますが、救急科の運営にも携わらせていただけていることにも達成感があり、臨床面以外でも責任や仕事を与えていただいているのはキャリアとしては良かったです。
それから子どもと過ごす時間を長く持てるのもいいですね。松本市は環境も良く、やんちゃ坊主の子育てにも適しています(笑)。

勤務中の写真

専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

 専攻医によく説明しているのは医学と医療の違い、エビデンスとエクスペリエンスの違い、職人技についてです。
医学と医療の違いについてですが、医学は学問なので、正しいと判明していることや正しくないと判明していることがありますが、それを患者さんに落とし込めるかというと、患者さんには色々な環境があります。これが医療です。
次にエビデンスとエクスペリエンスの違いについてですが、エビデンスは研究結果がしっかり出ているもので、このエビデンス優先というのが今の科学的な医学の流れです。
しかし、「上級医から教わったから」ということがまかり通っていることがあります。それにはエビデンスが全くなく、ただの経験則であれば、それがエクスペリエンスです。ときにはそのエクスペリエンスが間違いであることもあるので、それを分けて教えています。そして「君が今、教わっていることはエビデンスなのか、エクスペリエンスなのかを理解しながら教わりなさい」と言っています。
一方で、職人技というのは誰でもできることではなく、本当に優れた人間が時間をかけて学ぶもので、それは専攻医には不要だと説明しています。それを目指すのは時間の無駄ですし、標準的なことを漏れなくできるようになれば、結局はレベルの高い医師になれるので、まずは標準的なことを目指そうと話しています。

先生の指導スタイルは変わられましたか。

 以前は事細かく教えていたのですが、最近は許容できる範囲で「泳がす」ことにしています。これは上級医に教わったことなのですが、事細かく教えると、専攻医の自主性が身につかないし、満足感も低くなるそうです。
そのため、このラインは絶対に超えてはいけないというところは私がびしっと言いますが、そうでないところは彼らの判断で動いてもらい、それを逐一見ながら、ラインを超えたら介入するようにしています。
そして、成人教育なので、怒らないということも大切にしています。成人だけでなく、子どもにもそうあるべきかもしれません(笑)。「勉強して」と思うこともありますが、怒らないように気をつけています。

今の専攻医を見て、いかがですか。

 私が当院に戻ってきてから、コンスタントに専攻医が入ってきてくれており、専攻医研修を終えるときにはある程度のレベルに到達しています。
これは私たち上級医というよりも、彼らの努力あってこそですね。とは言え、このくらいの診療レベルであれば専攻医研修を卒業していいなと思えるのは私たちの教育や指導が間違っていなかったということでもあるので、嬉しく感じます。
最近は初期研修医が多くなり、10人以上がフルマッチしていて、2学年を合わせれば20人以上の初期研修医がいるので、初期研修医への指導に時間がかかっています。そのため、専攻医の指導にかける時間が少なくなり、気をつけてはいるのですが、その時間配分は今後の課題だと考えています。

現在の臨床研修制度について、感想をお聞かせください。

 最初から診療科を決めるのは良くないですし、かと言って1カ月ごとに違う診療科を2年間、ローテートし続けるのも細かく分けすぎだと思いますので、今のように必修科と自由選択が半分ずつというバランスでのスーパーローテートは良いですね。
ただ、働き方改革の影響で、以前よりも研修時間が減ってしまわないか、気になっています。
初期研修医は過度に保護されるぐらいの方がいいのかもしれないですが、過保護にしすぎると経験する量が減るので、それが彼らのデメリットになりかねないことを危惧しています。

現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。

 多少は仕方がないにしても、ほぼ医局化されつつありますね。指導医を設けられない病院は専門医を育てるべきではないという考え方が今回の制度に影響を与えていますが、たしかに一理あります。
その根底にあるのは専門医資格を持っていることが必ずしも臨床的な能力を担保しないということであると個人的にも思います。救急専門医や集中治療専門医といった専門医資格があっても能力が担保されていないので、その資格を取れる方法をもう少し工夫してほしいですね。
マンパワーは必要ですが、口頭試問やシミュレーションなどを設け、実際の臨床的な能力を担保できるような試験にしてほしいと考えています。

【動画】白戸先生

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