札幌医科大学附属病院
〒060-8543
北海道札幌市中央区南1条西16丁目291
TEL:011-611-2111
FAX:011-621-8059
病院URL:https://web.sapmed.ac.jp/byoin/center/index.html
名前 辻 喜久(よしひさ)
札幌医科大学総合診療医学講座教授 臨床研修・医師キャリア支援センター長 指導医
職歴経歴 1973年に滋賀県に生まれる。2001年に高知医科大学(現 高知大学)を卒業後、京都大学医学部附属病院内科に勤務する。2003年に倉敷中央病院内科、消化器内科に勤務する。2010年に米国メイヨー・クリニックにクリニカルリサーチフェローとして勤務する。2013年に倉敷中央病院に医長として勤務する。2014年にブータン王国JDWNR病院に出向する。2016年に滋賀医科大学臨床教育講座IR室長(准教授)に就任する。2020年に札幌医科大学医学部総合診療医学講座教授に就任し、臨床研修・医師キャリア支援センター長を兼任する。2022年に滋賀医科大学総合診療部教授を兼任する。
日本内科学会内科認定医・総合診療指導医、Bhutan Kingdom医師免許・指導医資格、日本プライマリ・ケア連合学会大学ネットワーク委員会委員、公益社団法人医療系大学間教養試験実施評価機構医学系OSCE委員会委員、北海道地域医療対策協議会委員など。
札幌医科大学附属病院の特徴をお聞かせください。
本学の特徴としましては、20人前後の初期研修医がいるので、仲間同士で切磋琢磨して学ぶことが出来ます。学べる項目としては、最先端の全ての科がそろっています。あとは、非常に自由度が高い点です。コロナで手術ができない状況等でも、いろんなことに対応できるというキメの細かさもあります。
地域性についても特徴があり、移動する範囲が圧倒的に広いです。札幌のような大都市の医療も経験できれば僻地の医療も学べます。このことは、すごく大事な事だと思っていて、両極端な医療を経験する事で、両方の医療がより深く理解できますので、他の研修病院では経験できない事を自然に経験できます。
辻先生がいらっしゃる総合診療科についてはいかがですか。
初代に有名な教授がいまして、総合診療からいろんな教授の方が旅立っていかれました。そのように歴史と伝統のある診療科だと思います。多様性があり、都市の総合診療・僻地の総合診療が学べ、非常に多くのことに対応できます。その中で、両方の現場(都市と地域)で活躍できる総合診療医を育てるというテーマで取り組んでいます。また、垣根が低いのも特徴の1つです。北海道の中で総合診療の先生方と交流させて頂いており、お互い助け合うような形で北海道全体をリソースとした教育を展開しています。
私は滋賀医科大学の教授もさせていただいているので、滋賀と北海道の架け橋になりたいです。将来的には、北海道で学んだ方が滋賀に、あるいは滋賀で学んでいる方が北海道に行けるような相互交流的なプログラムが、近いうちに行えることになっていますので、より多様な地域で学ぶことができると思っています。そのように多様な地域で活躍できる総合診療医の輩出に、広く取り組んでいくことをしています。
札幌医科大学附属病院の初期研修プログラムで学べる特徴について、ご紹介くださいますか。
たすきがけ研修では、北海道内の有名病院と連携しており、アクティブに患者さんを診ることも、じっくり診ることも出来ますので上手く活用して欲しいです。そうした点で、急性期から慢性期まで、あるいは看取りまで、と非常に多様性に富んでいます。研修医の皆さんがしたいことは何か、ということを考えながらご相談頂き、その中で一緒にプログラムをオーダーメイドしていく流れを感じてもらいたいです。多様であるからこそできる自由度の高さが、当院にはあると思います。
初期研修医の人数はどのくらいですか。
約20名の研修医がいます。北海道の出身で地元の都市圏の大学にいた方もいれば、地域医療に憧れて当院に来られている方もいますね。札幌医科大学附属病院は都市のど真ん中にありますので、そうしたアーバンライフ的なことも期待されてこられる方など、非常にいろいろな先生方がおられます。
先生の研修医時代はいかがでしたか。
仲間が良かったと思います。4~5人くらいで診療科をまわるのですが、私以外はすごくしっかり勉強している方ばかりで、勉強の仕方等を教えてくれました。当時は忙しく睡眠時間がなかなかとれず、とても大変でしたが、一緒に助け合いながらやっていくんですよね。様々な患者さんの事を話し合いながら、みんなで準備をしていました。それがすごく勉強になりました。これもご縁なんですけど、仲間が多いところで学ぶということは、良い刺激があるので良いと思います。今でも当時の仲間にはものすごく感謝しています。
アメリカ留学はいかがでしたか。
非常に勉強になりました。ぜひ皆さんにも行っていただきたいと思います。同じところにずっといると「自分は段々できるようになっている」と感じてきます。しかし、それはお医者さんとしてできるようになっているのではなく、その施設のローカルルールに慣れた結果、要領が良くなっているだけの部分があります。留学はそういうところを全部剥がされて、また1からやるという経験ができて、ものすごく自分自身を成長させてくれますし、同時に日本の医療や今までやってきたことを客観的に見られる、当然であったことが当然ではないんだということがたくさんわかります。
ブータン王国の経験はいかがでしたか。
これもとても大変でした。例えば胃カメラについて、胃カメラをできる医師が少ないので、患者さんが3日ぐらいかけて山の中から歩いてくるんですよ。そうしたらお腹の中が食べ物でいっぱいで、胃カメラをしても早期の胃がんは見つからないんです。日本では前処置等をしっかり対応していますが、ブータンでは全然やらないんですよ。それで、胃カメラを突っ込むのですが、それでは丁寧に見られないし、早期の胃がんなんて発見できないんです。そういう環境をみて、胃がんの早期発見について日本ではいろんな工夫がされていて発達していると気づかされました。案外普通だと思っていた事が普通ではないという、いろんな背景に触れることが出来ました。その点において、視点を変えてみることが自らを成長させてくれるといった学びになりました。
札幌医科大学附属病院に勤務されるようになったきっかけはどういったものだったのですか。
私がアメリカにいた時に、東日本大震災で津波がありました。その時にアメリカのチームとして日本に派遣されました。患者さんを見たときに、電気も何もないところで診療をしていて、医師としてできることは何なんだろうと思い、今まさに自分の持ってるもので患者さんと向かい合うということが大事なんだと思いました。それは、目・耳・鼻であったり、寄り添っていく距離感だったり、そういうふうなことはどこでもできることだと思いました。自分で見てきたことを後輩に伝えることの大切さを強く感じました。それを教えていきたいと思って、最初は滋賀医大で勉強させて頂きました。次に臨床の方でそれらを伝えていきたいということで、ご縁があって札幌に来させて頂きました。僕の中では、教育というキーワードをずっと展開していきたいというのが正直な気持ちです。
総合診療科の面白さはどこにありますか。
やはり『多様性』ですね。いろんな人が見られるというところです。いろんな人の中には自分も含まれます。いろんな人の繋がりの中で、いろんな人がいるなっていうのを見ていく中で自分もその中の1人として、「自分もこういうところは一緒だな」、「こういうことは違うな」というのがわかります。そういう意味で、自分を深く掘り下げることができるという部分に、本当の意味での総合診療の面白さがあると思います。
「こんな研修医がいた」というエピソードがあれば、お聞かせください。
思い出としては、研修医と一緒に汗をかいたという点で、すごくいい経験をしました。絶対に助からないと言われていた患者さんがいまして、劇症肝炎で大学病院に搬送されたんですけど重症膵炎を合併しており、手術や移植せずに劇症肝炎であれば助からない事も多いのですけど、ある研修医と一緒に担当をして助ける事ができたのです。厳しく指導した彼にはとても申し訳ないと思うんですが、ほぼ無理だと言われていた状況から、救命して歩いて帰っていただきました。患者さんと向かい合って、なんとかしようと思うと、こちらも死に物狂いになるんです。研修医の先生も本当につらかったと思いますが、よく耐えてくれたと思います。その患者さんが助かったのは彼のおかげだと思っています。
指導される立場として心がけていらっしゃることを教えてください。
今は怒らないようにしています(笑)。それぞれに立場があって、思いがあって、それぞれの立場に立って考えるようにしているのですが、できればどういうふうなビジョンで将来どう育っていきたいかというのは共有したいと思っています。研修医の先生と喋るときはできる限り話を聞いて、その思いを汲んで、一緒に先生のビジョンを実現するためにどのようなアプローチが可能なのかを一緒に決めていきたいと思っています。
しかし、一番難しいけど大事にしていきたいことは、駄目なことは駄目と言ってあげることが必要と思っています。ハラスメントにならないよう、次に繋がるような形でフィードバックすることに取り組まないといけないと思っています。そこに、「将来あなたは指導者になるんですよ」と声をかけ、教育者になってほしいという思いを伝えて、いろんなフィードバックを行っています。
最近の研修医をご覧になって、どう思われますか。
皆さん、「今の若い人は」と言われることもあるかと思うんですけど、僕はそんなことはなく、昔の自分を見ているようで非常に好ましいです。制限されていることもあれば、昔以上にできるようになっていることもあり、制度は違いますがそんな中で努力してあがいている皆さんがとても好印象です。こうして挑戦してる中で失敗したり、ぶつかったりすることをよく見るんですけど、そういう人に対してどんな支援や教育ができるのかということをいつも考えています。
研修医に「これだけは言いたい」ということがあれば、お聞かせください。
教育者を目指してほしいですね。皆さんに指導者になるということを念頭に置いて、臨床をしてほしいです。患者さんに正面から向かい合うということはすごく大事なことです。基本だと思いますし、そうした経験が将来指導者になる際に役に立つと思います。将来、自分の経験を次の世代に伝えるということを考えて頂きたいなと思います。
現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。
これは難しい質問ですね。正直、制度はどうでもいいと思っています。制度というものは、あくまでそれをどう運用するかということで、その意味が決まると思います。
制度に自分の人生を決められるわけではないと思いますので、今の研修制度に関してはそれに乗っかっていくものとしては、その制度に乗ったら自分が一人前になるんだというような判断や考えではなく、それにどういう乗り方をするのか、それによって自分の成長の仕方が変わります。研修医の先生には、研修先を選んでただ研修するのではなく、その先にある自分はどうなっていきたいのかというのを考えてほしいと思っています。
新専門医制度についてのご意見もお願いします。
専門に関して初期と違う部分があるとすれば、チャレンジしていかないとチャンスは広がらないというところです。失敗を恐れることは仕方がないかもしれません。専門という、より責任が重いポジションに行く中で、どうしてもリスクは出てくるので、専門医制度の中で研修をするにあたっては、失敗を恐れずチャレンジしていくことがどうしても必要になります。専門医制度とか、臨床研修制度については、学ぶ際の失敗をある程度、誰かがカバーして許容していける、そういう制度設計が必要なのかなと思います。
これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。
まず患者さんと向かい合って欲しいです。それができる病院を選んでほしいなと思います。患者さん個人個人を大事にしていくと必然的に成長します。ですので、患者さんと向かい合うことを大切にする病院を選んで欲しいと思います。「多様性を担保してくれる」「それぞれに対してのビジョンをサポートしてくれる」そういう病院を選んでいって欲しいです。
みなさんの見るビジョンというのは人それぞれ違うわけですから、多様性があります。そして得がたい仲間がいるかどうかです。一緒に汗をかいて一緒に支え合うような仲間がいるかどうか、これは個人の力ではどうしようもできない部分もありますね。
病院見学に行くときは同じぐらいの世代の人たちがどんな表情をしているか、生き生きとした表情をしているかどうか等、そういうところを見てほしいなと思います。