愛媛大学医学部附属病院
〒791-0295
愛媛県東温市志津川454
TEL:089-960-5098
FAX:089-960-5759
病院URL:https://www.hsp.ehime-u.ac.jp/
- 名前
- 丸田 雅樹(まるた まさき)先生
- 役職
- 血液・免疫・感染症内科(第一内科)助教 / 指導医
- 経歴
- 1986年 愛媛県東温市で生まれる。
2011年 愛媛大学を卒業後、市立宇和島病院で初期研修を行う。
2013年 市立宇和島病院血液・膠原病・感染症科で後期研修を行う。
2016年 愛媛大学大学院に入学。
2019年 愛媛大学大学院を修了。
2020年 愛媛大学医学部附属病院血液・免疫・感染症内科(第一内科)助教に就任する。
- 専門医資格
- 日本内科学会専門医・指導医、日本がん治療認定医機構がん治療認定医、日本臨床腫瘍学会がん薬物療法専門医、Infection control doctor(ICD)、臨床研修指導医など。
愛媛大学医学部附属病院の特徴をお聞かせください。
やはり、愛媛大学医学部附属病院は地域で唯一の医師養成機関であり、特定機能病院として責任を持って地域の基幹病院での標準治療でも診断や治療が難しい患者さんの診療にあたり、患者さんの住み慣れた地域で医療を完結させるという重要な役割を担っています。
丸田先生がいらっしゃる血液・免疫・感染症内科についてはいかがですか。
私は血液内科を専門にしていますが、リウマチや膠原病内科、感染症内科の先生方と一緒のグループで診療にあたっています。これらの専門領域は切っても切り離せないところがあります。
例えば骨髄移植を受けられた後の患者さんは、ドナーの免疫担当細胞が患者さんの身体を感染症から守ってくれることになるのですが、逆にその患者さんの身体を攻撃するような有害な免疫反応も出てきますので、そういった面では自己免疫性疾患の要素もあります。
また感染症は移植後の免疫抑制状態や抗がん剤治療後の経過で必ず起きるものです。したがって、当科は身体に必要な免疫、あるいは不要な免疫を調整することで患者さんの健康を守ることを専門とした診療科だと思います。
愛媛大学医学部附属病院の初期研修プログラムで学べる特徴について、ご紹介くださいますか。
すべての診療科において、当院は地域医療における最後の砦として専門性の高い高度急性期医療を担っています。そういった替えが効かない重要な医療に触れられるのが当院の初期研修のストロングポイントです。
指導医はもちろん看護師さんを含めたコメディカルスタッフには志が高い仲間が揃っているので、初期研修医の皆さんが自分の能力を高める上で非常に刺激的で、学ぶところが大きいはずです。
加えてここは強調したい点ですが、他の大学病院に比べて当院が優れているところは、一次・二次・三次救急医療のすべてが積極的にバランスよく経験できることです。総合臨床研修センターの熊木天児センター長は大学病院の強みだけでなく弱みも熟知されています。
昔の研修プログラムでは風邪や発熱といった比較的軽症の患者さんの診療を担当する機会が少ないのではという研修医の先生方の不安を払拭できずにいました。そこで、この弱点を補完し研修の質を上げるために、近隣の救急輪番病院に初期研修医と同時に指導医も派遣して、責任を持って診療と指導を担当するという体制が確立しています。
これにより、地域の救急医療を継続的に支えつつ、市中病院と同等の幅広い臨床経験を無理なくしっかり積み上げて貰える環境になっていると考えています。
自由度の高さについてはいかがですか。
私自身は2024年度から総合臨床研修センターの運営委員となり、研修プログラムの改善にも関わらせていただいています。そこでまず驚いたのが当院の初期研修の自由度の高さです。初期研修医の希望に対して、「それはウチではちょっと難しい」「前例がない」と言うのではなく、「どういう形でそれを叶えようか」と研修センターの皆さんが親身になって各方面と調整して実現に繋げています。
これは仕組みには落とし込むのが難しい部分だと思います。指導医や研修センタースタッフが研修医一人一人の立場に立って、なるべくそのキャリアを継続的にサポートしようという熱意がとても強く、これが当院の研修の柔軟性の高さに繋がっていると理解しています。
初期研修医へのサポート体制について、お聞かせください。
かつての初期研修医だった私が特に重要だと思うのは経済的な側面ですね。額面上は都会の病院と比べると少し見劣りするかもしれませんが、実情は十二分なサポートが行われています。熊木センター長からは「時間外手当などは業務上必要な分だけしっかりつけなさい」と研修医への指導が周知されています。
そのため、働き方改革の真っ只中にあっても明確な基準が示されており研修医の先生が戸惑う様子はなく、診療グループの一員として責任を持って診療にあたることができる体制が確立しています。
もしかしたら基準が恣意的に曖昧にされていたり、研修医の側から忖度してしまったりなどで十分な経済的サポートが得られない研修病院もあるかもしれません。
当院では杉山隆病院長の全面的なご理解のもとで、研修医がそういった不要な負担を感じずに研修できているので安心して下さい。
初期研修医の人数はどのくらいですか。
1学年の定員はアイ(愛)プログラム38人、アイプログラム小児科コース2人、アイプログラム産婦人科コース2人となっています。
先生はなぜ血液内科を選ばれたのですか。
学生の時から抗がん剤治療に興味を持っており、身体的な苦しみのほかに精神的あるいは社会的なサポートを必要とするような患者さんを多く目にしてきました。私自身は攻めることを主にしつつ守りを怠らない全方位的な医療を理想としており、継続的かつ全人的に患者さんの力になれる医師になりたいと考え日々鍛錬しています。
愛媛大学には素敵な指導医の先生方が揃っているので様々な診療科に惹かれたのですが、抗がん剤によって疾患を治し切ることができる患者さんが多い血液内科を選択しました。
血液内科に決められたのはいつですか。
実は初期研修2年目の夏まで決めかねていてそのままもう1周内科をローテートして決めてもいいかなと思っていたぐらいでした。でも、その年に初期研修先の血液内科のスタッフが減ることになり、尊敬している診療科長の先生から一緒に働こうと声をかけていただきました。
私の医師としての成長を考えるうえで大きなチャンスと考え、血液内科に決めました。
初期研修、後期研修ともに市立宇和島病院で過ごされたのですね。
初期研修が終わったときにがん治療に特化した都会の病院で後期研修をすることを視野に入れていたのですが、より広く深い臨床経験を積むべきだとも感じていました。
後期研修では一人でその場を守りきれるという経験が医師としての自信につながると考えそのままスタッフとして残ることを選択しました。
後期研修が終わられてから、大学院に入られたのですか。
そうです。大学院での最初の1年は社会人大学生として、遠隔授業を受けていたのですが、2年目からは臨床から完全に離れ、ちょうど海外留学から帰国された一流の先生の指導を運よく受けられることになり、基礎的な研究に昼夜問わず没頭する毎日でした。
また、そのタイミングで医局に入局しました。大学院での数年間は濃厚で、自分の医師としての成長に大きく資する時間だったと感じています。
どのようなことを研究されたのですか。
今、血液領域の治療は大きな変革期に入っています。造血幹細胞移植は効果の高い治療ですが、大きな副作用があるため若年患者さんでないと十分に効果を引き出しにくいという短所があります。その理由を分析すると、やはり免疫ががん細胞にだけ働いているのではなく、患者さん自身の細胞に対しても向いてしまう負の側面が大きいということにあります。
その点を解決するために、患者さんご自身のリンパ球にがん細胞を認識できる受容体の遺伝子に導入して体内に戻すというCAR-T細胞療法が2020年から日本でも保険適応となりました。
私が大学院に入った2016年時点ではこれから日本でもできるようになるかもしれないというタイミングで、分かっていないことが多い状況でした。どういった患者さんにどういう臨床状況で、どういう条件を整えたうえで投与するのが最適なのかが分かっていなかったので、大学院では指導医の下でCAR-T細胞を研究室で実際に作成しどういった条件を整えることで効果を最大化できるのかという研究を行っていました。
大学院修了後は大学病院に勤務されているのですね。
大学院修了後は主に大学病院で臨床や教育にあたっています。臨床に関しては造血器腫瘍の患者さんへの抗がん剤治療を中心に担当しており、がん薬物療法専門医の資格も活かして院内キャンサーボードの一員としても活動しています。
当院が2023年からCAR-T療法の認定施設になり、院外からも多くの患者さんを紹介いただいており、当院が担うべき特定機能病院としての役割を果たせていることを実感しています。
「こんな研修医がいた」というエピソードがあれば、お聞かせください。
最近の研修医の先生はバランス感覚に優れている方が多い印象があり、インパクトのある研修医は少ないように見えますが、やはり一人の人間として関わっていくと一人一人が非常にユニークで見どころがあり、全ての先生が等しく記憶に残っています。
指導される立場として心がけていらっしゃることを教えてください。
研修医を指導することは大学教員としての業務なのですが、ただの作業になってしまわないように、「自分はこういうところで躓いたから、ここをスムーズに乗り越えて欲しいな」などと、一人の先輩あるいは同僚の立場で、チームの一員としての責任感ややりがいを実感しながら成長できるような指導をすることを大切にしています。
最近の研修医をご覧になって、どう思われますか。
礼儀正しい研修医が多く、そのあたりは私たちが研修医のときよりも社会人として優れていると思います。一方で、私たちやより上の世代の先生方の若手時代にあったようないわゆる「熱い指導」を受けにくい面があると思います。
臨床の現場では、「この患者さんをどんな手を使ってでも助けないといけない」という強い内的動機やある意味で度を超したような情熱が原動力になることがあります。周囲とのバランスを取ったり、ガイドラインに沿って淡々と進めていくというだけでは実現しえないことが実際にあります。
そういう「熱さ」は理不尽さとしばしば混同されますし、パワハラにも繋がりがちなので(笑)、そこは気をつけないといけない。ただ、「もう手はないかもしれない」という場面で、研修医の先生には「この患者さんがあなたの親や家族だったら、それでいいのか、ここで諦めるのか」ということを常に考えてほしい。
研修医の先生にそういったメッセージを投げかけることで「自分がどうにかしなければいけない」と気づいてくれて、診断・治療にかける熱意と主治医として持つべき視点を持ってくださるのでは、と思います。
研修医に「これだけは言いたい」ということがあれば、お聞かせください。
目先の損得や病院のスペックや印象にとらわれすぎず、大局的に自分の成長を最大化できるように、真剣に考えてほしいと思います。それを考えるうえでは実際の臨床経験が必要ですが、研修が始まる前は臨床経験を積めないというパラドックスが当然あります。
その点はそれぞれの病院にいる先輩に相談すると、メリットやデメリット、あるいはできることやできないことを教えてくださると思うので、腹を割って話せる先輩に自分の夢や目指すところを積極的に相談して、悔いのない選択をしてほしいなと思っています。
現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。
基本的な建て付けとしては非常に優れた制度ですね。なおかつ数年単位で細かな制度見直しも行われているので、より実のある制度に更新されています。
ただ、色々な診療科をローテートすることでは達成しえないこととしては「医師としてのキャリアの継続的なサポート」があると思います。臨床経験という点では市中病院は申し分ないのですが、医師の仕事は診療だけでなく、研究と教育の三本柱だと言われていますので、臨床研修制度の中でも今後、研究や教育の重要性を伝えていく必要があると考えています。
専門医制度についてもご意見をお願いします。
こちらは現在検討中の部分もあり、賛否両論があると思います。具体的には個人の学習タイプによるところが大きいと考えています。
私はステップバイステップで一つずつレベルアップしていきたいタイプなのですが、そういう人にとっては経験すべき症例を一例ずつ整理していける現在の専門医制度はとてもいいと思います。
一方で、同僚や後輩を見ても、効率よくリアルな臨床経験を積極的に積んでいきたいタイプの人が少なからずおられますが、そういう先生にはまどろっこしい部分が大きいかもしれません。もう少し選択できる余地があるといい制度になるのではないかと感じています。