石井先生・加藤先生・中島先生
深谷赤十字病院での初期研修で勉強になっていることはどのようなものですか。
加藤私は小児科を志望していて、来年度は小児科の専攻医研修を始めることもあり、今も小児科を回らせていただいています。2年目になると、小さな赤ちゃんへの手技から様々な疾患まで、さらに色々なことを経験させていただくようになりました。将来、携わる科だということもあり、一つ一つの症例が身になり、勉強になるのが有り難いです。
石井勉強することが多すぎて、これというものがありません(笑)。一番印象に残っているのは患者さんにきちんと会いに行く大切さを学んだことです。毎日、患者さんと直接お話しすることで、治療も変わるし、勉強すべきことも変わります。色々な先生方から教わったことですが、その大切さを日々の診療で実感しています。
中島当院は当直回数が少し多いんです(笑)。その当直ではファーストタッチをさせていただけるのですが、それは自分が成長できる手段です。何をすればいいのかを自分で考え、それを実行するときに、学生時代とは違って、医師として任せていただけていることを実感できています。
伊藤当院は症例も豊富で、手技もかなりのことが経験できます。手技に関しては上級医の指導のもとに「これをやってはいけない」というラインを決めています。でも、一番強調したいのは石井先生が言ったような、患者さんのところに足を運ぶという態度や習慣づけです。初期研修の3要素である知識、技能、態度・習慣の中で、やはり態度・習慣は臨床医としての最初の2年間で身につけるべき最も大切なことだと思います。医師が経験を積み、偉くなってくると、裁量権も大きくなり、態度・習慣が疎かになる場合もありますので、最初に身につけるべきなんです。患者さんのもとに足を運ばず、データだけを見て、「やっといて」と言う医師になってほしくないので、その態度・習慣づけは強調していることですね。それからコメディカルのスタッフとのコミュニケーションです。そのあたりが段々と横柄になってくる医師もいるので、初期研修の2年間で身につけてほしいです。
抄読会は今も行われているのですか?
伊藤抄読会は私が副院長になり、臨床研修の担当を始めたときから10年以上続けていますが、新型コロナウイルスの感染が拡大してからは月によっては中止しています。英語の論文を読むことも態度・習慣だと思います。学生時代は国家試験の受験勉強にマニュアル的な本を使ったかもしれませんが、医師としてはアカデミックマインドを身につけることが大切です。市中病院ではどうしてもそのあたりが疎かになりがちです。日々の診療に追われると「こういうときはこうすればいいんだ」とパターン化してしまうんですね。もちろんそれは重要ですし、それで成長もしますが、視野を広げて「なぜ、これをするのか」と考えることも必要です。抄読会には初期研修医が全員参加するわけではないのですが、そのときに彼ら、彼女たちに話を聞き、皆がきちんと研修できているかを確かめたり、皆の要望を聞いたりする機会にもなっています。
加藤英語の論文を読む機会はなかなかありませんし、自分から探しにいかないといけないのですが、抄読会で英語の論文を読むと「こんなことが英語で書かれているんだ」と考えるきっかけになっています。1カ月に1回、院長先生にお会いできるのも楽しみです。
石井抄読会は英語の論文に触れられる貴重な機会です。院長先生が毎回「研修どう」と聞いてくださり、私たちのことを気にかけてくださっているのが有り難いです。
中島英文を読む機会もそうですし、英文を読んで、それをまとめて発表するのが難しいなと感じています。読むだけではなく、ほかの人に対して、分かりやすく発表することも勉強になっています。
瀧先生・大島先生
救急科を選んだ理由はどのようなものですか。
瀧初期研修で救急診療科の前に外科を回ったときには外科医を目指そうと思ったのですが、救急診療科を回ってみて、考えが変わりました。外科の院長先生には申し訳ないです(笑)。当院の救急診療科では他科に比べて、初期研修医が診断のために必要な検査や治療方針を決めたり、患者さんのご家族に話をするなど、裁量権が大きいんです。回ったときにとても楽しかったですし、外科のようにお腹を開けたり、縫ったりもできるので、救急科を専攻することにしました。また、救急科では主治医制ではなく、チーム皆で診るというチーム制であることも良かったです。将来はワーク・ライフ・バランスのライフの部分が大事になってくるかもしれないので、チーム制の救急科は働きやすいのかなという邪な気持ちもありました(笑)。
大島私はもともと整形外科志望で、本当に直前まで専攻医研修では整形外科に行こうと思っていました。でも、折角この2年間で色々と経験させていただいたのに、整形外科に行ってしまうと、胸腔ドレーンを入れたり、腰椎穿刺をしたりといった手技ができなくなると言われたんです。整形外科の中には全身管理が苦手な先生もいらっしゃると伺い、私は骨盤骨折や大量出血、外傷などに興味があることもあって、全身管理を自分の中に定着させてから整形外科に進むなら進もう、まずは救急科にお世話になろうと決めました。
伊藤二人とも救急科を選んで、結果的には良かったです。女性の救急医がいることに期待していた部分もあったので、二人が救急科を選んでくれたのは本当に嬉しいです。瀧先生は深谷市の奨学生だったこともありますが、救急科ではスムーズに研修できます。外科だとどうしても大学とのタイアップになり、ほかの病院で研修しないといけないこともあります。ちょうど結婚するタイミングでもあったので、彼女なりにワーク・ライフ・バランスを考えた結果でしょうね。大島先生は整形外科だと聞いていたので、どこかの大学で専攻医研修をするのかと思っていました(笑)。でも大島先生は深谷市出身で、地元で生まれ育った人が救急科の専攻医として当院に残ってくれたのだから、これほど有り難い話はありません。最近の整形外科は細分化してきており、手術は固定手術中心で、救急疾患を診ない医師が増えてきました。彼女はそうではなくて、骨折などの外傷を診る整形外科医を目指していたので、彼女の希望とマッチする形で当院の救急診療科を選んだんでしょうね。しかし、将来どの道を行くにしても、当院で救急科の専攻医研修をしたことが必ず役に立ちます。何しろ色々な疾患を診られることが当院の特徴だからです。当院で初期研修をして、都内の大学病院や大病院で後期研修、専攻医研修をした人は皆、都内の病院は疾患が偏っていると言ってきます。当院の救急診療科の医師がよく「都内のどの病院が虫に噛まれた患者さんを診るんだ」と言っていますが、都内だと破傷風を診た経験のある医師は少ないでしょうね。確かに数km圏内にいくつも大病院があれば棲み分けになるのは当然ですが、当院は広い地域の患者さんを診ていますので、疾患のバラエティは都内の病院よりも圧倒的に豊富です。
深谷赤十字病院での専攻医研修で勉強になっていることはどのようなものですか。
大島救急搬送の電話が来るところから対応させていただいているので、当院がいかに広い地域を管轄しているのかがよく分かりました。20分も30分もかけてやって来る救急車をうまくさばいていかなくてはいけないというのは勉強になります。そして、病院にかかる機会があまりなかったり、農業などのお仕事が忙しかったりする患者さんの特徴や地域性を考えながら診療していくことの大切さを学んでいます。
瀧私は2021年3月から2022年1月まで育児休暇を取得し、2月に復職しました。育児休暇中に初期研修の2年間で学んだことを全て忘れてしまい、それを取り戻すところから始めたんです(笑)。今は少しずつ慣れてきたところですね。初期研修では患者さんのご家族とお話しすることが苦手だったし、自分が言った一言で患者さんがショックを受けることもあったりするので、今も言葉遣いや表現の仕方などを悩みながら勉強しています。
女性医師の活躍はいかがですか。
伊藤医学部に入学する女子学生が4割という状況ですので、女性の活躍なしでは医療を支えることはできません。こういう東京から離れた場所でも女性医師が増えてきて、活躍してくれるのは病院にとっても有り難いですし、ますます期待したいところです。それに伴い、瀧先生のように出産や子育てに直面する医師も増えてきましたので、そうしたライフイベントを支える体制を可能な限り作っていきます。もともと日本赤十字社はブラック企業の対極なんです(笑)。働きやすさに関してもきちんとしないといけない企業なので、国の基準からしても手厚い方だと思います。産前産後の休暇、育児休暇制度は当然として、短時間の常勤制度もあります。就業制度にしても、ほかの企業よりもしっかり休めるようになっています。
加藤先生・石井先生
先輩たちを見ていかがでしょうか。
加藤お二人の先輩方が救急車の電話を受けるところから初期対応をして、治療方針を決めてというところまでをかっこ良く進めていらっしゃるのを見て、卒後3年目でこんなに働けるのはすごいなと思って、尊敬しています。
石井お二人とも本当にかっこ良くて、2年後にあんなふうになれるのかなと思っています。お二人の良さを吸収したいので、動いている姿を盗み見させていただいています(笑)。
中島私は11月から1月まで救急を回っていたのですが、やはり女性医師が現場にいると雰囲気が柔らかくなるなと感じました。救急の男性の先生方は厳しい印象もあるので(笑)、そういう面でも心強かったです。
加藤瀧先生みたいにお子さんを産んでも働いている先輩方を見ると、「この病院ではこういうふうにサポートしてもらえて、こういうふうに働けるんだな」と分かりますし、ライフプランの先輩としても参考にさせていただいています。
今後はどちらの科にいかれるのでしょうか。
加藤私は小児科を選びました。小児科を選んだ理由は色々とあるのですが、一つは奨学金をお借りしているので、この地域に何を還元すべきかを考えると、瀧先生が進まれた救急科か、周産期医療を支える小児科が候補に挙がり、小児科に決めました。しっかりした小児科があることで、子どもを産み、育てやすい地域になるといいなと思っています。専攻医研修1年目は埼玉県立小児医療センターにお世話になります。そこで高度な医療を学び、深谷に還元したいです。
伊藤周産期医療は救急と同様、採算が取れにくいので、民間病院はなかなか手を出しづらいため、当院のような公的病院が担うべき領域です。儲からないからと潰すわけにはいかないですし、そのために医師を確保しないといけません。加藤先生がそういう道を考えていると言ったので、私は二つ返事で大賛成と言いましたよ。しかも埼玉県立小児医療センターを第一志望として、そこで学びたいという志もあり、あちらの院長先生もそれを分かって引き受けてくださったので、安心しています。きっと成長して、当院に戻ってきてくれるはずです。
専攻医のお二人の今後のキャリアプランをお聞かせ下さい。
大島救急の専門医を取れたら、このまま救急で行くのか、整形外科に行くのかを決めていくつもりです。まずは救急の専門医を取ることが目標ですね。
瀧私も目標はまだふわっとしています。奨学金の義務年限が10年あるので、10年の間に救急の専門医を取り、外傷やアルコール中毒といったことを勉強したいと思っていますが、その先は未定です。