チームWADA

2021-06-04

チームWADA特別インタビュー PART2 海外での仕事について

NPO法人「チームWADA」の代表、北原大翔医師のスペシャルインタビュー。 第2回は「海外での仕事について」。

海外で活躍する医師、看護師、薬剤師、その他さまざまな職種の情報をリアルタイムで発信する NPO法人「チームWADA」の代表北原大翔医師のスペシャルインタビュー。
第2回は「海外での仕事について」。北原医師の海外での過ごし方や海外で仕事をする上でのポイント などをうかがっていきます!

北原 大翔 Kitahara Hiroto

北原 大翔医師

アメリカ合衆国の首都、ワシントンD.C.で心臓外科医としてはたらく現役の医師。 慶應義塾大学を卒業後、日本で8年間研修を受けたのち、心臓外科のフェローとして留学。
2年間の研修を終え、仕事内容に魅力を感じたことから、アメリカで勤務することを選択。
非営利団体「Team WADA」代表理事として、海外留学・就労をめざす医療関係者、 医学生の支援活動を積極的に行っている。

「チームWADA」とは

チームWADAは海外で活躍する医師、日本国内の医師や医学生を中心に構成されたNPO法人です。
海外からの情報発信を礎に、医療関係者、医学生の海外留学・就労の支援や海外で働く医師同士の交流の場を提供しています。
情報が欲しい、きっかけが欲しい、自らを鼓舞してくれる先輩・同僚・ロールモデルが欲しい、あるいは自分でもまだわからない何かが欲しい人達にとっての、 その“何か”になれればいいな、という思いの下、活動をしています。

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インタビュー動画 part2 ~海外での仕事について~

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(6)アメリカと日本での医師の働き方の違いはありますか。

私が感じている違いは二つあります。一つは仕事の内容です。私は日本にいたときは心臓外科医としての全ての仕事をしていたと思います。朝、患者さんを診て、必要な薬や指示をオーダーし、手術に入って、手術後は搬送を手伝い、ICUに着いたらICUの管理をし、それが終わったら、病棟で患者さんを診て、退院が決まったら退院調整をして、退院調整をしたらサマリーを書いてというような仕事です。さらに、学会があれば学会用のデータを集めて、発表のプレゼンをしてという仕事もあります。
しかし、アメリカでは心臓外科医の仕事は手術がほとんどです。手術以外の部分をカバーしたり、介入する他職種がいるので、私がしなくてもいい仕事が多くあります。
例えばICUで管理してくれるICUの医師、病棟で患者さんを診てくれるナース・プラクティショナーと呼ばれる診療看護師、手術を手伝ってくれるフィジシャン・アシスタントなど、本当に様々な職種の人たちが一人の患者さんにアプローチします。それが私に時間を与えてくれるので、その時間で自分のしたいことやプライベートを充実させられることが日本との大きな違いですね。それからもう一つの違いはお金です。アメリカの方がものすごく稼げます。

(7)医師の給与や制度の違いについて、お聞かせ下さい。

アメリカでは診療科によって給与が違うということもポイントです。日本は診療科ごとの差はそんなにないですよね。大学病院であれ、一般病院であれ、腎臓内科と脳神経外科で給与が違うかと言えば、外科医の方が年収100万円から200万円ほど高いぐらいでしょう。でもアメリカでは1000万円、2000万円単位で変わってきます。
例えば、私がいたイリノイ州では心臓外科医の平均年収は5000万円ぐらいで、内科医は2000万円です。その時点で、3000万円ほど変わっています。外科的な処置をする人たちの給料が高いというのが大きな違いですね。日本の大学病院や一般病院で働いているとするなら、私の感覚では卒後13年目の私で1500万円に届かないぐらい、一般病院の部長クラスで2000万円から3000万円ぐらいでしょう。
一方で、イリノイ州の5000万円というのは全員の平均であって、1年目の人も30年やっている人も含まれての5000万円です。したがって、5000、6000、7000、8000万円、1億円の人もいるでしょう。日本は45歳ぐらいで部長になれば、そこから給料は上がっていきません。
しかも、日本の方が労働時間が長いです。それに日本は保険点数が決まっている保険診療ですが、アメリカには外科医や処置を行う診療科の医師に対して、手術1件あたりの点数があり、年間に決まった点数を獲得すればインセンティブのような形で給与にダイレクトに影響するシステムがあります。決してお金を稼ぎたいから手術をするわけではありませんが、それがあるとモチベーションになります。日本にも手術1件あたりのインセンティブを出している病院があるようですが、そこまで明確なものではなく、手術を週に1回しても、週に7回しても、給与が変わらないなら何なのかということです。若手なら手術を多く経験するのはいいことですが、ある一定のところまでいけば、そういう思いも出てくるでしょう。
私はアメリカの考え方の方が好きで、私の価値観に合っていますし、お金をしっかりもらいたいので、アメリカに来てとても良かったです。

(8)アメリカと日本で医師の評価基準に違いはありますか。

アメリカでは周囲の目や相互の目が入っている印象があります。日本は最近でこそ、そういう意識になってきましたが、10年前だと外科医は手術室に入ってしまえば王様のように振る舞えたし、パワハラやセクハラが横行していました。こういう行為をアメリカでしてしまったら、完全アウトです。
日本では上に権力者がいて、上から下を評価するシステムができていますが、下から上への評価はあまりありません。上から言われたことが絶対という形です。一方で、アメリカではもちろん上から下への評価もありますが、下から上への評価もあります。例えば、あの医師はどうだとか、特にトレーニングにおいてはしっかり教育されていないなどと意見を通す場があります。トレーニーがきちんとトレーニングを受けられていないことが問題になるシステムが存在しているのがいいですね。日本では心臓外科医がどれだけトレーニングを受けていないにしても、それを「僕、トレーニングを受けていません。
それは駄目だと思います」と言う場所がなく、先輩に少し愚痴る程度です。そして先輩から「次の病院に行けば、受けられるんじゃないの」と言われ、納得するしかないんですね。これは日本の皆が辛かったところです。私自身はさほど気になりませんでしたが、ほかの人から辛いという話を聞いて、かわいそうだと感じていました。

(9)留学先やプログラムを選ぶ際に大切なことはどのようなことですか。

レジデンシーで留学するのか、フェローで留学するのかで異なってきます。レジデンシーとはアメリカの研修プログラムに入る正規の留学方法です。もう一つのフェローは、私のようにレジデンシープログラムをすっ飛ばし、専門を決めたあとでその専門のインターナショナルフェローの枠に入るというものです。レジデンシーで入るなら、マッチングプログラムに自分が行きたいところを最優先に書けばいいのですが、インターナショナルメディカルグラディエート(IMG)は競争率がかなり高く、優秀だからといってどこでも採用されるわけではありません。日本の初期研修でも希望した病院に行けないことがあるのと同様です。
日本からアプライする人の中で、自分で病院を選択できる余裕は今はまだないですね。100個のプログラムに応募して、インタビューしてあげるよという返事が5個返ってきて、5個のインタビューを受けて、1つだけオファーをもらうぐらいの確率でしょうか。どちらかというと、向こうが選ぶという感じです。
私みたいに途中からフェローで行くというパターンはさらに特殊です。100個や200個のプログラムがそもそもなく、年間で10個から20個ぐらいのところが不定期にインターナショナルフェローが欲しいという広告を出すので、それをチェックします。あるいは私のように既にアメリカで働いている人が「誰か、そういう興味ある人いますか」と言って、それに対して「あ、行きたいです」と答えるような方法だったりするので、選択という意味はないです。広告が出たらすぐに行こう、とにかくアメリカに行って、そこからスタートしようという感じです。もちろん有名なプログラムに行きたい人は多いでしょうが、有名でないから止めておこうということはあっても少ないでしょう。

(10)北原先生のオフの過ごし方を教えて下さい。

日本にいたときよりもオフの時間は長いです。月に1回の土曜日、日曜日がオンコールだけで、あとはオフですので、時間を非常に有効に使えます。
当直というシステムもないので、当直もありません。もちろん専門によって違いはあります。私は心臓外科で、特に移植などをしていますので、手術しなくてはいけないこともありますが、日本にいたときよりも自由に使える時間は豊富にあります。
何をして過ごすかというと、日本にいたときと変わりません(笑)。日本のテレビ番組を見ており、土日はほぼテレビを見ながら寝て過ごしています。

(11)渡米して経験した大変だったことはありますか。

仕事の面では辛いことよりも忙しくて大変だったということぐらいです。ただ、留学すると鬱になるという話はよく聞きますし、シカゴ大学の上司だった太田壮美先生にも鬱になるのではと心配されたのですが、私は鬱になるタイプではないので、太田先生から「逆に大丈夫なのか」と言われていました(笑)。そういう意味で精神面は全く大丈夫だったのですが、食事面がきつかったです。とにかくご飯が食べたかったんです。
シカゴ大学はシカゴのダウンタウンの南の外れ、元大統領のオバマさんの自宅の近くにあります。一応レストランもあるのですが、胡散臭いインド料理屋などしかなく、1カ月ぐらいは辛かったです。でも、どこかに店を探しにいく意欲もなく、きついなあと感じながら歩いていたら、タイ料理屋を見つけました。そこでタイカレーを食べたのですが、とても感動ものでした。めちゃくちゃまずいんですよ(笑)。それまでずっとパンとか、よく分からないものを食べていたので、ゴムみたいなタイ米だけど、コメを食べている感じが嬉しかったんです。逆に言うと、これで留学も大丈夫だと確信しました。ご飯が食べられたら大丈夫なのだと分かったことが私の中で大きかったですね。
ワシントンDCに来てからは日本食の店も色々とあるし、日本のテレビ番組も見放題です。帰宅したら日本のテレビ番組を見て、日本食も食べて、こうして日本語を話しています。昼間だけアメリカの病院で働くという感じなので、基本的には日本にいるときと違いはありません。

〜チームWADAチャンネル〜


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