指導医インタビュー

横浜市立みなと赤十字病院

神奈川県横浜市中区新山下3丁目12番1号

名前
八木 啓一 横浜市立みなと赤十字病院 救命救急センター長、臨床教育研修センター長、指導医
職歴経歴
1954年に大阪府泉大津市で生まれる。1981年に鳥取大学を卒業後、大阪大学医学部附属病院特殊救急部で研修医となる。1981年に阪和記念病院脳神経外科、1982年に愛知県厚生連海南病院外科に勤務を経て、1985年に大阪大学医学部附属病院特殊救急部に勤務する。1987年に米国セントルイス大学麻酔科に留学する。1990年に兵庫県立西宮病院救急医療センターに勤務を経て、1992年に防衛医科大学校病院救急部に助手として着任し、1993年に講師に就任する。1996年に大阪府立泉州救命救急センターに副所長として着任す
学会等
日本救急医学会専門医・指導医、ICLS指導者養成WSディレクター、JPTECインストラクター・神奈川世話人、日本救急医学会評議員、日本臨床救急医学会評議員、日本中毒学会評議員・編集委員・クリニカル・トキシコロジスト、日本集団災害医学会評議員、神奈川県救急医療問題調査会三次救急部会委員、神奈川県MC協議会委員、横浜市災害医療アドバイザー、横浜市MC協議会委員・救急活動安全管理委員会委員など。

横浜市立みなと赤十字病院の特徴をお聞かせください。

開設以来、機能を充実させており、循環器内科の沖重薫医師のように世界的に有名な医師もいます。めまい・平衡神経科の新井基洋医師もテレビなどでお馴染みです。外科、脳神経外科、整形外科の手術症例も豊富です。今は200人を超える医師が在籍し、大学病院などに引けを取らない陣容になってきました。その中でも、救急に力を入れている病院です。救急病棟では毎日10床ほど空床を確保しますが、そのために入院患者を次々にほかの病棟に出しています。当院の救急科は病院全体からサポートを受けていますから、患者さんを断らずに受けることができているんです。ファーストタッチは初期研修医が行いますが、ベッドの心配をする必要がないので、当院の初期研修医は患者さんを断る辛さを知らないんですね。私は救急医として、色々な病院に勤務しましたが、当院は他科から「どこに入院させるんだ」、「救急が取った患者さんをどうしてうちの科で診るんだ」などと言われることもなく、ストレスを感じずに働いています。救急科は他科のサポートあってこその診療科です。例えば外傷であれば、外科、整形外科、脳神経外科、形成外科、口腔外科の存在が不可欠です。当院は精神科の単独病棟もありますから、自殺未遂や薬物中毒の患者さんもお受けできています。ほかの診療科が充実しているから、患者さんを引き受けられるわけですし、病院全体がアクティブに動いています。

横浜市立みなと赤十字病院の初期研修の特徴もお聞かせください。

病院の特徴が初期研修の特徴にそのまま繋がります。毎月1,000台以上で、年間12,000台もの救急車が来るのは恐らく日本有数でしょう。しかし、このような数が目標なのではありません。断らないことが目標なのです。初期研修医は救急車のみならず、年間12,000件ものウォークインの患者さんのファーストタッチを行います。初期研修医は大変でしょうが、救急をしたくて集まっている人たちですから、喜んでやっています。

現在、初期研修医は何人いらっしゃいますか。

1学年20人です。内訳は当院のオリジナルの初期研修医師が13人、たすきがけで来ている初期研修医が7人となっています。

指導される立場として心がけていらっしゃることを教えてください。

持論をお話しさせていただきますね。これは大学での授業をはじめ、医学教育の問題でもありますが、最近の研修医は血液検査やレントゲンに頼り過ぎています。患者さんからの話を聞いて、問診をし、自分の手で触って、五感で感じたうえでの診断をつけることを疎かにしがちです。問診の訓練ができていないんです。患者さんと少し話しただけで、検査のオーダーを全て出してしまい、そのデータを見てから診断をつけることが正しい診断法だと思っているのではないでしょうか。総合診療科の医師は問診だけで90%以上は診断がつくと言います。私は救急医療もそれに近いものがあると思っています。総合診療科を宣伝する番組で「ドクターG」が流行っています。しかしその「ドクターG」にしても、問診の技術は見せず、本来問診で聞き出すべき部分をビデオで見せています。なんか残念です。
当院は救急に力を入れていますから、臨床検査技師もレントゲン技師も2人ずついますし、夜中でもCTやMRIの撮影ができます。簡単にオーダーができ、オーダーしたことで叱られることもありません。しかし、1日35台もの救急車が来ますから、いくらスタッフがいても、データが出るまでに1時間かかることもあります。それは本当の臨床医のすべきことではありません。私は研修医に「交通事故なら、その再現フィルムが作れるぐらいの問診をしなさい」と言っています。救急隊から報告が来ますから、現場の事故の状況から、どこに損傷がありそうだというのは事前に想像できます。そして患者さんに、どのぐらいのスピードを出していて、どんな状況で事故に遭ったのか、どこの部分を打ったのかを聞くのです。そのうえで、患者さんの痛がっているところを触ってみると、損傷がある部位が推定できます。レントゲンはその推定を確認する意味で撮ります。患者さんが打撲したと言っているところを全てレントゲンで撮ると、損傷のないところまで撮ってしまいます。手で触って、患者さんが痛がったら、ここに骨折がありそうだと推定してレントゲンで確認する。この診察の感覚とレントゲン結果を繰り返し頭の中にフィードバックすることにより診察の感覚が研ぎ澄まされます。レントゲンだけに頼っていると本当は骨折があるのに、レントゲンの角度が少し変わっただけで、写らないこともありますし、見逃しにつながります。整形外科医もレントゲンだけでは分からないと言っています。私の仕事は翌日、そういった見落としを探すことです(笑)。モーニングセミナーでも各科の医師が「問診を大切に」と言ってくれていますね。
また、問題の一つに電子カルテも挙げられます。研修医は患者さんが言ったことしか入力しないんですね。しかも問診しながら入力するので、漢字などのタイプミスも多くなりがちです。私は問診するときは患者と向かい合ってそれだけに集中します。電子カルテへの入力はレントゲンや検査のデータが出るまでの間に行います。

最近の研修医をご覧になって、どう思われますか。

今、挙げた問題と同じです。初期研修医が40人いると大変ですが、当院で初期研修する限りは教育したいと思っています。私はモーニングセミナーの講師を担当する機会が多いのですが、救命救急センター長という立場から電子カルテ上で症例をピックアップして講義をしています。初期研修医が記入したカルテに赤字でチェックを入れたり、初期研修医を呼んで、個別に指導することもあります。

先生ご自身は大阪大学医学部附属病院で、どのような研修医時代を過ごされましたか。

入局前は阪大の心臓血管外科と特殊救急部は研修医がストレッチャーで寝ているぐらい過酷なところだという噂を聞いていましたが、そこまで酷くはなかったです。私は平気でしたね。むしろ外で酔っ払って、病院に帰ってきて、ストレッチャーで寝たことはありました(笑)。研修医時代はとにかく貪欲に学びました。関連病院で脳神経外科、一般外科を勉強したあとは大学に戻りました。かつては一般外科にしても泌尿器や内視鏡、気管支鏡までしましたし、脳神経外科の血管撮影もしていたんです。当時の救急医はオールマイティーでしたね。今はそれぞれの分野が進んでいるので、個人が全ての領域の最先端技術を身に付けることはできませんが、以前は日中は外科医で、夜は脳神経外科医の手術のサポートという日もありましたし、整形外科や婦人科の手術にも入っていました。外科系だけでなく、糖尿病性昏睡があれば糖尿病科の部長に習ったりもしていました。私は救急をこなせる医師になりたかったですし、当直のときに遭遇する疾患もありますから、色々な科と繋がりを持って、経験を積みたいと考えていましたね。

研修医に「これだけは言いたい」ということがあれば、お聞かせください。

当院は多くの症例がありますが、それをたくさんのレントゲンや検査データに出会えるということにつなげてほしくありません。それだけ多くの問診ができ、患者さんからいろんな所見を経験できるということにつなげてほしいと思います。

これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。

少ない症例であっても、それを一生懸命すればいいという考えもありますが、やはり数を診ることも大事です。当院には2年目にたすきがけで来る初期研修医がいますが、大学病院ではどうしても上級医の下働きや雑用が多かったという話を聞きます。大学病院は症例が多くても、上級医が方針を決め、初期研修医が採血やオーダーをしているようですが、当院は違います。当院では初期研修医が方針を決め、指導医はそれを了承する立場ですので、初期研修医にかなりの部分が任されているのです。当院で1年目の修羅場を経験した初期研修医と他院からたすきがけで来た初期研修医を比べると、全く違います。1年目は何も分からないまま、救急の患者さんを診ることになりますので、たくましくなりますね。押さえるべきところを押さえることができるようになります。
当院は指導医のサポートがしっかりしていることも特徴です。失敗は指導医がカバーします。救急外来では初期研修医3人に対し、指導医1人がついています。救急車が来ると、指導医が担当を振り分けます。重症なら指導医が診て、初期研修医がサポートに回ります。軽症なら初期研修医が診ますが、指導医が最終結果に目を通します。ウォークインは初期研修医が診て、内科系当直、外科系当直の指導医に必ず相談することになっています。当院で2年間の初期研修を行えば、信頼できる医師になるはずです。

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