指導医インタビュー

地方独立行政法人 北九州市立病院機構

北九州市立医療センター

福岡県北九州市小倉北区馬借二丁目1番1号

名前
西原 一善 先生
職歴経歴
1959年に大分県で生まれる。1984年に九州大学医学部を卒業し、九州大学第一外科に入局する。1984年に愛媛県立中央病院で初期研修を行い、1985年は九州大学第一外科で研修を行う。1986年より3年間、大阪回生病院外科に出向する。その後、1989年から九州大学第2病理学教室(現:形態機能病理)で研究と学生の指導を担当する。1993年国立小倉病院外科(現、小倉医療センター)に勤務する。同じく1993年に九州大学で医学博士号を取得し、1994年から北九州市立医療センター外科に勤務する。

北九州市立医療センターの特徴について、お聞かせください。

特徴は3つあります。1つ目は高度型のがん診療連携拠点病院として、手術ではロボット手術、内視鏡手術をはじめとする外科的治療に加えて、充実した放射線治療、外来化学療法センター、緩和ケアセンターなど、高度のがん治療を行っています。特に外科手術では消化器外科と乳腺内分泌外科が年間1671例、呼吸器外科が221例と多くの手術を行っています。手術成績は全国500数十カ所あるがん拠点病院の中で、95%以上予後の解析ができている250ぐらいの施設の中で上位に位置しています。去年は胃がんが13位、大腸がんが21位でした。

2つ目が総合周産母子医療センターです。北九州医療圏及び近隣、ときには久留米あたりからも来られるのですが、リスクの高い妊婦の方、新生児に24時間対応しており、かなり高いレベルの周産期の治療をしています。

3つ目が地域に根差した生活習慣病ケアです。糖尿病内科、循環器内科、心臓血管外科、脳神経外科、整形外科などで先進的な医療を行い、地域医療機関と密接な連携を図っています。

特徴の中のがん治療についてお聞きしたいのですが、がんの治療実績が全国屈指の北九州市立医療センターでは年間どれぐらいの患者さんが来られて、先生はどれくらい治療をされているのですか。

2018年度のがんの手術症例数は、外科では乳がんが408例、甲状腺がんが31例、食道がんが32例、胃がんが92例、結腸がんが100例、直腸がんが84例、肝臓がんが61例、胆道がん14例、膵臓がん28例でした。外科以外の5大がんでは呼吸器系の原発性肺がん158例、転移性肺がんを21例手術しています。外科系以外では放射線治療468例、抗がん剤治療が9846例となっています。

北九州市立医療センターの外科プログラムの特徴について、お聞かせください。

当院は、大学病院以外で珍しく、日本専門医機構による専門医プログラムを内科、外科、麻酔科の3科が基幹の施設として独自のプログラムで行っています。そのため、初期研修が終わったあとで専門研修を行い、内科専門医、外科専門医、麻酔専門医まで取得することができます。
外科プログラムの使命と目的は専攻医が医師として必要な基本的診療能力と外科医としての専門的診療能力を習得することです。2番目に診療能力とともに高い倫理性を備えることに加え、プロフェッショナルとして相応しい外科医となることです。3番目に日々進歩するがん治療と救急医療に対応できる基礎を形成することです。4番目が外科専門医の育成を通して国民の福祉、健康並びに地域医療に貢献するということを目指しています。当プログラムでは外科領域の幅広い研修により、外科専門医取得のための研修を確実に行っています。またサブスペシャリティ領域、消化器外科、心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科、乳腺外科、内分泌外科の専門研修を行い、それぞれの領域の専門医取得を積極的にサポートしています。当プログラムは症例数の豊富な北九州市、福岡市の地域中核病院を中心に構成され、外科医養成の基礎となる救急疾患や悪性腫瘍の手術や周術期管理を数多く経験することができます。

2018年以前の後期研修と、2018年からスタートした新専門医制度に変わってからの大きな違いをお聞かせください。

新しい専門医制度では初期研修後、専門医機構に決められた基本領域から科目を選択し、
指導施設として認定を受けた病院群で研修を受けるようになっています。研修終了後は経験症例数などの活動実績と筆記試験を経て専門医の認定を受け、サブスペシャリティ領域の研修試験を受けるようになりました。外科ではもともと外科学会の専門医制度がしっかりしたものがあったので症例数などの条件は変わっていません。変わったのは、前の制度では同じ施設のみで研修を受けられていたところが、新専門医制度では1施設のみではなく、ローテーションをしないといけなくなったことです。ただ、これも当院ではもともとレジデント期間はローテーションしていたので、大きな変更はありません。

北九州市立医療センターの外科プログラムで研修を受けると、専攻医はどういったスキルが身に付くのでしょうか。

当院の外科はグループが4つに分かれています。乳腺内分泌グループ、胃がん・食道がんを対象とする上部消化管グループ、結腸がん・直腸がんを対象とする下部消化管グループ、肝臓・胆道・膵臓を担当する肝胆膵グループの4つです。これらのグループを3カ月から4カ月ごとのローテーションで回ってもらっています。その間、多くの手術に参加することで標準手術、標準治療を経験します。また、その後、消化器外科、呼吸器外科、心臓血管外科、小児外科などのサブスペシャリティ領域の専門医を目指すことも可能です。さらに、今人気がある内視鏡外科学会の技術認定医、日本肝胆膵外科学会の高度技能専門医などのスペシャリストを目指すことも可能です。

北九州市立医療センターで研修を終えられた方はその後どういったキャリアを進まれるのでしょうか。

当院で初期研修、それから専門研修を終えると、希望する大学医局に所属する人が多いです。当院では内科、外科、麻酔科が基幹施設として、独自の専門研修プログラムを持っているため、当院に所属して、内科専門医、外科専門医、麻酔専門医を取得し、スタッフとして働くことも可能ですし、そのキャリアをもって各自の希望に沿って転職することも可能です。外科はあまりいないのですが、麻酔科では数人がそのまま当院に就職しています。研修には医師の確保という面もありますので、自分のところで育てることが大事なのではないかと思っています。

先生はどのような研修医時代をお過ごしでしたか。

私が卒業したのは1984年で、今の若い医師が生まれていないぐらい昔の話です。研修医は24時間病院にいるのが当たり前で、大体の人が病院に住み込んで、2週間に1回程度アパートに洗濯に帰っていました(笑)。だから下着も20枚から30枚持っていて、病院に置いていました。夕食はほとんど午後10時以降になり、食堂も開いてないので、飲み屋で飲むといった生活でしたね。印象的な思い出としては最高4日間、徹夜で手術したことです。4日目は急性膵炎の手術だったのですが、眠くてこけそうになったことがあります。研修医1年目の愛媛の病院では三次救急があったので、交通外傷、心肺停止の患者さんのファーストタッチではとても怖い思いをしたことは頻繁にありました。近年は働き方改革やパワーハラスメント、医療安全などの浸透もあり、社会全体も医師や研修医を労働者とみてくれるようになりました。
そのためか、逆に研修医に時間外勤務をしてもらうことが非常に難しくなりました。どこの社会も同じですが、指導とパワハラの境界が非常に狭いので、指導する人もお願いする感じになっているようです。また、患者さんや研修医の安全のため、重症患者のファーストタッチをお願いすることが非常に難しい状態になってきています。

どうして消化器外科を選ばれたのですか。

流れみたいなところもありますが、私の性格上、あまり気が長い方ではなく、どちらかと言えば気が短いので、糖尿病や肝臓疾患などのなかなか治らない病気を担当するのは私に向いていないと思いました。手術すれば治るか悪くなるかのどちらかで、早期決着がつくということで、外科を専攻しました。始めは胸部をやりたかったから心臓血管外科か胸部外科を考えていましたが、疾患数が少ないんですよね。そのため、疾患数のより多い腹部外科を目指して、九州大学の第一外科に入りました。
1年目の研修時代は肝臓外科手術を多く経験しましたが、手術はうまくいっても肝硬変があったり、肝不全で亡くなったりして、肝臓手術というのは大変だ、手術だけではなかなか治せないということが分かりました。そして、九州大学第2病理学教室で膵臓や胆道の病理の研究をさせていただき、これらの手術に携われればいいなと考えたのが現在の膵臓とか胆道外科の手術を専攻するにいたった動機です。この領域は難しい手術なので、希望する外科医は多いのですが、症例数があまり多くないことと手術が高難度のため、希望したからと言ってできる外科医は少ないんです。そのため、現在、膵臓外科や胆道外科に携わっていることは非常に幸運なことと感謝しています。

先生が指導されるお立場として心掛けていらっしゃることはなんでしょうか。

連合艦隊司令長官であった山本五十六の「やってみせ、言って聞かせて、させてみて、ほめてやらねば、人は動かじ」という非常に有名な言葉があります。その言葉を調べてみると、続きがあって、「話し合い、耳を傾け、承認し、まかせてやらねば、人は育たず。やっている姿を感謝で見守って、信頼せねば 人は実らず」とあります。私も後半は知らなかったのですが、指導者の立場としては非常に分かりやすい言葉だと思います。というのも、見たこともない手術をさせるわけにはいかないからです。そこで、初めてのものは手術に入ってもらって見学してもらいます。当院は症例数が非常に多く、ほかの施設ではたまにしかないような手術を一般的にやっているので、まず見てもらいます。肝胆膵手術、それから内視鏡手術は全部ビデオライブラリーがありますので、手術の前にビデオライブラリーを見て、予習しておくことが可能です。手術前のキーになるポイントをアドバイスしますが、多すぎると覚えきれません。そのため、ポイントは3つぐらいまで、多くて4つぐらいまでに抑えています。実際の手術ではビデオライブラリーで予習をしているので、非常に筋がいいですね。若手医師がするべきことをわかっているので、私があまり怒ったりすることもありません。よほどまずいときだけ手を出したり、口を出したりするだけで、上手くいったときは積極的に誉めるようにしています。ほめ殺しと言われるときもありますね(笑)。

最近の研修医や専攻医の先生をご覧になって、どう思われますか。

最近は手術の専門書やビデオライブラリーが多いので、初めての場合でも非常に上手に手術する研修医や専攻医が多くなっており、指導する苦労は少なくなってきています。昔はボロボロの手術書しかなかったのですが、今の手術書は緻密に書いてあるので、今の人たちは幸せですね。ただ、致命的な合併症に繋がりそうなときには我々の責任なので、口も出す、手も出して止めるなり、サポートするなりすることが必要だと思っています。当院はそのような指導体制がしっかりしており、皆の心に余裕があるために、患者さんにも優しく接するし、コメディカルにも丁寧に接してくれています。強いて言うならば、問題点と言うほどではないですが、カンファレンスやチーム医療でやっているときには積極的にディスカッションしてもらいたいなと思っています。

印象に残っている研修医や専攻医のエピソードをお聞かせください。

当院の外科では研修医や専攻医に対し、1日1例か2例の手術についてもらいます。1週間で10例ぐらい、2カ月だと50例から60例の人が多いのですが、2カ月で90例の研修医がいました。彼は残念ながら外科に入らず、脳神経外科に進みましたが。また、英語で論文を書いてもらったところ、WHOに引用された研修医もいます。自分が載ったときよりも嬉しかったですね。
専攻医のエピソードでは、10年以上前の話になりますが、日本外科学会という日本の外科の中で一番大事な学会があります。専攻医が学会発表する自体がものすごく珍しいことですが、外科学会で発表したいのでテーマをくださいと言ってきた人がいました。それで、少し考えてテーマを与えると、外科学会できちんと発表して英文論文もまとめて、その後でハーバードに留学して、今は九州大学で教鞭をとっています。専攻医でも数カ月のトレーニング期間で、どんどん腕をあげて手術できるようになる人が何人もいて、若い頃のラーニングカーブは早いなと年寄外科医としては羨ましく思っています(笑)。

専攻医もしくは初期研修医にこれだけは言いたい、こういうマインドを持ってほしいといったものがあれば、教えていただけますか。

一般的なことですが、外科医師として独り立ちできるための技量と知識、周囲とのコミュニケーション、チーム医療の推進を積極的に行ってもらいたいです。それから社会的使命への奇与、利他的な態度に自らを高める姿勢など、医師としての基本的な価値観を高めてもらいたいと言いたいです。これは当たり前のことで、当院の医師はがん治療において最高水準の技量を持っていますので、専攻医もそれらの人たちに感化されて、自然と技量を身につけています。しかし、技量の上達にあたっては受け身で学ぶには限界があるので、専攻医の先生は特に積極的に前に出て研修してもらいたいというのが私の希望です。

これから専門研修を受ける初期研修医に向けて、メッセージをお願いします。

当院はホームページにも書いていますが、病床数が585床、常勤が112人、指導医が30%である41人、1日平均外来患者数は1076人、1日入院患者数が432人、高度型のがん診療連携拠点病院、総合周産期母子医療センター、災害拠点病院、地域医療支援病院、第2種感染症指定医療機関であり、本当に地域基幹型病院となっています。先生方が希望する研修のほとんどが学べますので、当院での研修をお待ちしています。

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