指導医インタビュー

社会医療法人 中信勤労者医療協会

松本協立病院

長野県松本市巾上9-26

名前
上島 邦彦(うえしま くにひこ)先生
松本協立病院副院長、総合診療科診療部長、研修プログラム責任者、指導医
職歴経歴
1971年に奈良県御所市で生まれる。2000年に信州大学を卒業後、松本協立病院に勤務する。2016年に松本協立病院総合診療科診療部長に就任を経て、2018年に松本協立病院副院長に就任する。
学会等
日本内科学会総合内科専門医、日本プライマリ・ケア連合学会認定医、臨床研修指導医など。日本消化器病学会、日本消化器内視鏡学会、日本感染症学会、日本臨床血液学会、日本静脈経腸栄養学会にも所属する。

松本協立病院の特徴をお聞かせください。

内科、とりわけ循環器内科が強く、地域の基幹病院となっています。病院の規模自体は199床と小さいのですが、内科の規模は400床クラスに相当します。呼吸器科、消化器科は内科外科二次救急、循環器科は心臓血管外科もあるので三次救急まで完結させることができ、大規模な病院に匹敵する診療能力を維持しています。一方で、大規模な病院と異なり、地域のかかりつけ病院でもありますので、慢性疾患でかかりつけにしてくださる患者さんも大変多く、診療所のような雰囲気もあります。地域包括ケア病棟も有しており、訪問診療にも積極的に取り組んでいます。

上島先生がいらっしゃる総合診療科についてはいかがですか。

当院は月の3分の1は松本広域医療圏の二次救急を担当していますので、そこには様々な患者さんが来られます。循環器、呼吸器、消化器は当院のテリトリーではありますが、二次救急担当日にはそれ以外の患者さんも多いですね。そのため、総合診療科は当院のテリトリーとそれ以外の分野の間をカバーする存在です。専門医がいない分野も専門医のレベルに負けないつもりで診ています。ほかの特徴としては入院の患者さんを診る、いわゆるホスピタリストであることが挙げられます。特定の病気ではなく、その人が持っている多数の疾患やプロブレムを診るスタイルに重きを置いています。

松本協立病院の初期研修の特徴もお願いします。

主治医制で、1年目から主治医を務めてもらうことが特徴です。主治医といっても全責任を負わせるわけではありません。屋根瓦式で、1年目の初期研修医に2年目の初期研修医、3年目から5年目の後期研修医、そして指導医がチームとなって、チームの中で主治医として活躍してもらいます。そして、1年目の4月から8月までは導入期という名称をつけていますが、その期間を総合診療科で過ごします。1学年3人ですので、少人数制の良さを活かし、その3人と上級医を合わせ、6、7人のグループで研修を開始します。将来どの科に行くにしても、初期研修でどの科をローテートするにしても必要になるような普遍的なマナー、医師としてのプロフェッショナリズム、身体所見の取り方、鑑別診断の挙げ方などを徹底的に学び、そこから各科のローテートに入ります。いきなり専門科をローテートするとその専門科のことを十分に学べなくなりますので、その前に医師としての共通の土台を作ってもらうことが狙いです。

初期研修の特徴として、ほかにどういったことが挙げられますか。

少人数制を活かせることとしてはプログラムがフィックスされていないことがあります。いわゆる大病院ですと同期との調整が難しくなるので、2年間のスケジュールがほぼ完全に決まっているようですが、当院は調整が自在です。最初に一応の形は決めますが、初期研修医のしたいことは研修中に変わってきますので、ニーズに合わせて、話し合って変えています。

初期研修医の人数はどのくらいですか。

1年目、2年目3人ずつの6人です。3人だと教える側も全員の顔を把握できます。自主学習の点からも「3人寄れば文殊の知恵」ですし、2人の意見が合わないときにもう1人がバッファーとなれるのがいいですね。良い距離感で研修できているようです。

指導される立場として心がけていらっしゃることを教えてください。

アンテナを高くして、研修医が何をしたいのか、何を探求したいのか、何を勉強したいのかを掴むようにしています。研修医が興味のないことやニーズのないことを教えても、研修医の中に残りません。ニーズのあることを教えたいですね。さらに、成人教育として、2年間を通して自主学習ができるスタイルを確立してほしいと思います。症例を実践したことで返ってきた結果を振り返り、そこで得た経験を一般化、概念化して、次の患者さんに活かしてほしいです。専門的な用語では省察的実践家と言いますが、究極の成人教育のスタイルですね。このスタイルを後期研修に入るまでに手に入れてほしいと思っています。

最近の研修医をご覧になって、どう思われますか。

今は大学の医学教育が非常に良くなっているので、初期研修医として入ってくるときに一定水準の基礎知識をきちんと持っていますね。私が研修医だった頃に比べると、今の研修医は特にプライマリケアに関する知識が豊富で、とてもいいことだと思っています。大学病院などの大病院をメジャーだとすると、初期研修医が3人の当院を選ぶ時点でそもそもマイナーなんですよ(笑)。しかし、並々ならぬ思いを持って当院を選んでくれた研修医なので、私たち指導医としては恵まれています。当院の研修医はモチベーションが高いので、教えやすいです。

「こんな研修医がいた」というエピソードがあれば、お聞かせください。

やはり1学年3人だと皆に思い出があり、全員忘れられない研修医です。

研修医に「これだけは言いたい」ということがあれば、お聞かせください。

何事も勉強にならないことはありません。無駄だと思ったことでも実は無駄ではないのだと常に言いたいです。どんなことでもあとから返ってきて、経験して良かったなと思えることばかりです。目の前に与えられていることに最大限にチャレンジしてほしいですね。

先生の研修医時代はどのようにお過ごしでしたか。

今から思えば、私たちの頃には教育というものはなかったですね(笑)。セミナーもなく、教えてくれる医師の背中を見て覚えろという、いわゆる徒弟制度ですね。最低限の安全は確保されていましたし、聞けば教えていただけましたが、自分で経験して、失敗して、うまくいって得たことを次の患者さんに活かし、伸びていくという感じで、効率も悪かったです。今は少し揺り戻しが来ている面もありますが、システム的には飛躍的に良くなりました。私たちが10例、20例と経験して、やっとそれを一般化、概念化して、これはこういうものだという域に到達していたものが、今は1例、2例の経験であっても教育法の進歩によって一般化、概念化させる事が可能です。医学教育の発展により、全医師の基本的な臨床能力は確実にアップしています。

先生はなぜ総合診療科を選ばれたのですか。

私が研修医の頃は総合診療科はありませんでしたし、私はもともとモラトリアムでした(笑)。どこかの専門医にならないといけませんでしたが、私は循環器や呼吸器など、内科全般に興味があり、内科の中でこれを選んで、ほかを捨てるということができなかったんです。それで目の前に与えられた仕事をしていたら、自然に総合診療科という肩書きがつきました。目の前の患者さんに困っていることが10個あったら、それを自分なりに解決したいと思いました。それが卒後5年目の頃ですね。そういうニーズをそういう仲間と解決していくのが総合診療科なのだと認識しました。私は消化器内科の専門医は持っていませんが、上部、下部の内視鏡検査や止血治療もしていましたし、血液腫瘍の化学療法もしています。これはその時々の病院のニーズがあったからです。循環器や腎臓など、どこかの内科の医師数が減ったときにはその間を埋める働きもしてきました。それが楽しかったし、やりがいを感じることができました。

現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。

2004年以前はストレート研修でしたが、実際には患者さんへの不利益が大きかったものと思われます。現在は患者さんを診るうえでの一般的な落とし穴やルール、医師としての作法や考え方、臨床推論などを2年間でしっかり教えられますので、素晴らしい制度だと思います。この制度が始まってから、特にプライマリケアをはじめとする日本の医療は大きく向上しましたので、私は高く評価しています。

これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。

初期研修では自分が卒後3年目、5年目に働いていたいところと真逆のところを選びましょう。例えば何かのスペシャリストを目指して大学病院に行きたいのなら、初期研修では地域の中小病院を選ぶといいです。また、専門科が決まっている方はその専門科に全く関係ない分野が強い病院を選びましょう。基礎に進みたい方、マイナー系のスペシャリストを目指している方は地域の方がかかりつけにする、患者さんとの距離の近い病院がお勧めです。なぜなら、将来に学べないものを初期研修で学ぶことで、医師としての裾野を広げてほしいからです。当院は総合診療科が強いので、ジェネラリストになりたい方もお勧めですが、裾野の広いスペシャリストになりたいという絵図を描いている人にもお勧めです。その絵図のロールモデルとなる人はそうたくさんはいないと思いますが、当院には揃っています。また、ただの総合診療医ではなく、専門医レベルのサブスペシャリティを持った総合診療医になりたい、山に例えると八ヶ岳のような医師になりたいという人にも来ていただきたいです。

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