北里大学メディカルセンター
埼玉県北本市荒井6-100
名前 長場 泰(ながば やすし)
北里大学メディカルセンター副院長 腎臓内科部長 臨床研修センター長 北里大学医学部准教授 指導医
職歴経歴 1965年に新潟県新潟市に生まれる。1990年に北里大学を卒業後、北里大学腎臓内科に入局し、北里大学病院で研修を行う。1992年に足利赤十字病院に勤務する。1996年に只見町国民保険朝日診療所に勤務する。1997年にジョンズ・ホプキンス大学に留学する。1999年に東芝林間病院に勤務する。2000年に北里大学病院に勤務する。2006年に北里大学メディカルセンターに勤務する。2016年に北里大学メディカルセンター臨床研修センター長に就任する。2021年に北里大学メディカルセンター副院長を兼任する。
日本内科学会認定内科医、日本内科学会認定総合内科専門医、日本腎臓学会専門医・指導医、日本透析医学会専門医・指導医、日本高血圧学会専門医・指導医、日本プライマリケア連合学会認定医・指導医など。
北里大学メディカルセンターの特徴をお聞かせください。
埼玉県北本市にある病院です。北本市は埼玉県の中でも規模が小さな市ですが、周辺の市町村に大きな病院がないので、医療圏としては30万人から40万人ぐらいの人口に対しての中核病院です。病院名に大学の名前が付いていますが、どちらかと言えば地域の市民病院や市中病院的な医療が中心となっています。
長場先生がいらっしゃる腎臓内科についてはいかがですか。
常勤医師は3人ですが、腎生検を含め、血液浄化に関する全ての診療をしています。病院の規模が大きくないので、腎臓移植は行っていませんが、腎臓移植後の診療はしていますし、腎臓疾患に関わる直接的な内科分野はほぼ全てカバーしています。小さい病院ですが、腎臓内科に関しては大きな病院と変わらないレベルの診療ができていると自負しています。
北里大学メディカルセンターの内科専門医研修プログラムで学べる特徴について、ご紹介くださいますか。
大学病院には専攻医1人あたりの症例数が少ないというイメージがありますが、当院はどちらかと言えば市中病院的な病院なので、主なコモンディジーズはきちんと学べます。最近は専門分野だけではなく、総合内科や高齢者医療も専門医研修に必須ですので、そうしたジェネラルな部分についての症例を豊富に学ぶことができる病院です。特殊な症例ですとさすがに少ない分野もありますが、そうした専門の病院でないと集まらない症例、経験できない症例については3年間のうちの1年間を関連病院で研修できます。これまでの専攻医は神奈川県相模原市の北里大学病院で専門的な内科をローテートしていました。また、将来のサブスペシャリティを決めている専攻医は関連病院でサブスペシャリティ領域を研修することも可能です。
外部の病院の選択肢は豊富ですか。
当院の内科専門研修プログラムは開始後まだ2年しか経っておらず、昨年1人、今年1人の専攻医しかいません。その2人については1年間、北里大学病院で専門的な内科をローテートし、当院で市中病院的な内容を学んでもらっています。現在のところは専攻医の人数が少ないので、これから埼玉県内の主要な病院との連携ができるよう、準備を始めている段階です。また、内科専門研修プログラムの必修ではないのですが、診療所や介護施設などでの研修を選択できる体制もあり、そのバックアップもしています。
北里大学メディカルセンターでの内科専門研修プログラム終了後はどのようなキャリアアップが望めますか。
3年間のプログラム終了後は内科専門医を取得し、サブスペシャリティの専門医取得を希望すれば、プラス2年間で勉強していただくことで、その専門医も取得することができます。一方で、サブスペシャリティの専門医を取得せず、当院で総合内科医的な働き方をすることも可能です。これまで入職した2人はそれぞれ腎臓内科と消化器内科を専門にするという予定で内科専門研修プログラムを始めました。大学病院の専門研修プログラムを選ぶ人はサブスペシャリティを決めている人が多いのが事実ですが、当院は市中病院的な病院ですので、一般内科や総合内科に勤務することも選べます。サブスペシャリティの研修後のポストについても、当院の場合は医師の枠に余裕がありますので指導医となり、そのまま残って働いていただけます。
カンファレンスについて、お聞かせください。
毎週火曜日の午後に透析患者さんを中心とするカンファレンスを行っています。また水曜日にはカルテ回診のような形で、必要があれば入院患者さんのところに行く、従来の回診をしています。一方で、一般的には併診と言われる、ほかの病気で他科に入院していて、血液浄化療法を受ける患者さんについても週に1回のカンファレンスをしています。それから内科全体のカンファレンスでは初期研修医を中心に、専攻医も含めて、各科の症例を毎週、発表し合っています。それほど大きな病院ではないので、内科全体でのカンファレンスと各科のカンファレンスを取り混ぜて開催しており、大学病院にしては内科同士の繋がりが強くなっています。
カンファレンスでは専攻医の発言の機会は多いですか。
そうですね。専攻医になると、地方会レベルの学会でも発表の機会が増えてくるので、そうした学会の予演会のようなものをしたり、専攻医自身の意見を言う場でもあり、発表の場でもあります。勉強になっていると思います。
女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。
北里大学自体が学年によっては女性が5割を超えていることもあり、男性、女性と区別している状況ではありません。最近はどの病院でも働き方改革が進んでおり、特に大学病院では下の学年ほど働き方をきちんと守ることになっています。管理職になりますと時間外労働があやふやになりますので、時間外労働をきっちりつけないといけない初期研修医や専攻医の方が休みをしっかり取れ、時間通りに帰れるような労務管理がなされています。当院には敷地内の別棟に保育所が併設されています。これまでお子さんをそちらに預けていた女性の先生方も何人もいました。そちらは当院の職員のみ利用可能ですが、院内の病児保育所は地域の方々にもご利用いただいています。したがって、子どもさんのことで仕事を急に休まないといけないという事態は他院に比べると少ないようです。本院の北里大学病院にも育児休暇を取得している女性医師が大勢います。北里大学には3つの付属病院がありますが、それらの病院全体で統一された基準があり、産前産後休暇や育児休暇からの復帰や当直免除に関しても、その基準や労働基準法を遵守して、全て整備されています。
先生が腎臓内科を選んだのはどうしてですか。
かなり前のことになりますね(笑)。北里大学には今もですが、当時も学生論文システムというものがありました。これは学生のうちに研究室に入り、研究をするというもので、そのときに入った研究室の指導医がたまたま腎臓内科の先生だったんです。最初は腎臓内科に興味があったわけではなかったのですが、腎臓内科の先生方と交流が深まっていったこともあり、入局先を決める頃にはほかの選択肢を選びにくくなっていました(笑)。そういう状況ではありましたが、学生時代に研究を先行して始めていたというのが直接のきっかけですね。
その研究室は学生が選べるのですか。
配属先の研究室を選ぶことはできました。学生に研究させるわけですから、どうしても基礎系の研究室が多くなるのですが、臨床的な内容の研究室もいくつかあり、私としては基礎系よりも臨床に繋がる研究の方が何かのためになるかなと思って選んだところ、とても面白い研究だったんです。その学生時代に始めた研究を医師になったあともそのまま続けました。これは今もある制度ですが、北里大学の良いところの一つではないでしょうか。
先生の研修医時代の思い出をお聞かせください。
私の時代はストレート研修で、今とはかなり違いますが、ただ北里大学ではストレート研修と言えども、どの内科に入局してもほかの内科もローテートすることができました。私の場合も2年間の研修の中で腎臓内科にいたのは6カ月程度で、1年半はほかの内科をローテートしていたんです。北里大学は当時から医局に関係なく、内科同士の垣根が低かったですし、私はしませんでしたが、内科以外の科を回るスーパーローテートも可能でした。これは北里大学が開学当初から採用しているシステムで、3年目以降に色々な病院に勤務した際も全ての内科を回っていた経験がとても役に立ちました。
先生は僻地医療も経験されたのですね。
福島県の南会津郡只見町にある只見町国民保険朝日診療所に行きました。現在は自治医科大学から行っているのですが、当時はなぜか北里大学から行く制度があり、希望して赴任しました。卒後5、6年目だったのですが、いわゆる陸の孤島で一人きりの医師として何でも診ないといけない状況はとても勉強になりました。北里大学では今で言う総合診療やスーパーローテートといったものを90年代から取り入れており、そういう中で育てていただいたことは本当にラッキーでした。
専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。
腎臓内科の研修であっても、内科に限らず、医師としての技量を最低限、身につけようということですね。専門研修プログラムに乗っていても、救急外来などにも積極的に参加し、学年が下であるほど、診療科に関わらず、内科全体を診られる医師になれるようにと心がけて指導しています。
今の専攻医を見て、いかがですか。
個人差や個性があるので、人によって指導方法を変えていかないといけないと思っていますが、それぞれが伸び伸びと研修しているように感じています。
現在の臨床研修制度について、感想をお聞かせください。
学生さんにとっては国家試験や大学の卒業というプレッシャーの中で、いわゆる病院への就職活動をしなくてはいけないのは大きな負担であるという印象があります。制度自体が開始時よりも厳しくなっていますし、個人的にはもう少し簡便な制度で病院を決められないものかと思います。当院は埼玉県の病院ではありますが、東京に比べるとまだ余裕があるので、東京の病院に決まらなかった人がこちらに来るというケースが年々増えています。東京に集中させないという意味ではいいのでしょうが、希望した地域の病院で研修できないというのはかわいそうな面もあります。
現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。
各分野で最低160症例が義務ですので、しっかりした病院を選ばないと3年という期間で専門医を取得するのは難しいです。内科では2021年にこの制度になって初めての専門医試験を受験する人が出ていますが、予定通りに研修を終了した人は75%だという状況です。したがって、専門研修先の病院は規定の症例数に達する見込みがあり、きちんと指導してもらえる病院を選ぶことが重要です。
これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。
専攻医研修の病院を選ぶときは初期研修とは少し違う目で見ていかないといけません。初期研修でいい経験ができたからといって、自分の専門分野での研修がその病院で大丈夫なのかどうかは分からないからです。いわゆるメジャーと呼ばれる内科や外科なら、どこのプログラムでも大きな違いはないのかもしれませんが、言葉は悪いのですが、マイナー診療科を専攻する場合は専門研修プログラムを持っている病院も少ないですし、地域のシーリングなどもありますので、そこでどのような研修ができるのかを注意する必要があります。当院も300床強の病院ですので、全ての専門研修プログラムを備えているわけではありません。しかし、専門研修プログラムは一つの病院だけで完結しないので、当院では北里大学病院の分院であることを活かし、北里大学病院の各診療科に配属されている専攻医が当院でも研修をすることが可能ですし、逆に当院の専攻医が北里大学病院で研修することもあります。北里大学病院は専門研修のレベルは高いのですが、一般的な症例が足りない場合もありますので、その場合は当院で補えます。つまり当院は主たる研修病院でもあり、関連病院としての役割も果たしています。初期研修を当院で行い、北里大学病院で専攻医研修を始めた人が2年目の専攻医研修を当院で行うこともあります。大学病院での研修には賛否両論あり、初期研修では市中病院を選ぶ人が増えているのは事実ですが、大学病院は全ての専門研修プログラムを持っていますし、どの診療科を選んだとしても必ず専門医になれるというメリットもあります。当院はそのメリットを持つ大学病院の分院でありながら、市中病院的な役割も果たしていますので、大学病院を避けたがっている先生方にも受け入れやすい特徴を有していると考えています。