浜松医科大学医学部附属病院
〒431-3192
静岡県浜松市東区半田山1-20-1
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病院URL:https://www.hama-med.ac.jp/hos/
名前 綱分(つなわき) 信二
御前崎市家庭医療センターしろわクリニック医長 指導医
職歴経歴 1980年に福岡県宮若市に生まれる。2004年に鳥取大学医学部生命科学科を卒業する。2008年に山口大学医学部医学科を卒業後、山口大学医学部附属病院で初期研修を行う。2010年に静岡家庭医養成プログラムで後期専門研修を行う。2013年に静岡家庭医養成プログラム老年医学フェローとなる。2014年に静岡家庭医養成プログラム指導医となる。2016年に浜松医科大学地域家庭医療学講座特任助教に就任する。2017年に菊川市立総合病院家庭医療科に医長として着任する。2020年に御前崎市家庭医療センターしろわクリニックに医長として着任する。
日本プライマリ・ケア連合学会家庭医療専門医・指導医、認知症サポート医など。
浜松医科大学医学部附属病院総合診療研修プログラム(静岡家庭医養成プログラム:SFM)の特徴をお聞かせください。
SFMでは全科診療といって、どのような患者さんがいらっしゃっても断らずにしっかり対応して診ていくことが根幹にあります。そして、どのような地域に行っても必要とされるプライマリケアを提供できる医師を目指し、日本専門医機構の要件を満たすだけではなく、女性医療、緩和ケア、整形外科領域などを幅広く研修していくプログラムです。産婦人科や整形外科を必修でローテートするプログラムは全国でも少ないと思います。
4年間のプログラムなのですね。
日本専門医機構の基準は3年でクリアできるのですが、さらに1年の期間を設けているのはより幅広く、より多くのことを勉強して、どこに行っても通用する家庭医を目指してもらうためです。現在は3年で研修をし、4年目で専門医機構の専門医試験を受け、5年目で日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医試験を受けるのですが、2023年度は4年間のプログラムというのは変わらないものの、専門医試験受験のタイミングに関しては変更があるかもしれません。
総合診療科には日本専門医機構と日本プライマリ・ケア連合学会の2つの専門医資格があるのですね。
2階建てなんです。専門医機構の専門医資格を取ったうえでないと、日本プライマリ・ケア連合学会の家庭医療専門医のための試験を受けることができません。1階部分をまず取って、2階部分を次にという感じです。
プログラムにあるHalf-day BackやOne-day Backとはどのようなものですか。
SFMでの研修が決定したら、菊川市家庭医療センターか、森町家庭医療クリニックか、御前崎市家庭医療センターしろわクリニックのいずれかの所属サイトを決めます。これは専攻医の希望を聞き、受け入れ状況とマッチさせ、相談しながら決めていきます。そして4年間を通して、所属先のクリニックで外来研修を行います。1、2年目は半日をクリニックで過ごし、家庭医療や総合診療を指導医のもとで学ぶのでHalf-day Backです。学年が上がるにつれ、クリニックでの診療に徐々にシフトしていき、1日をクリニックで過ごす日があるので、それがOne-day Backです。そのように年単位で内科を継続して診ていくことで、様々な患者さんのライフイベントへの対応や血圧の年代変動に対処できるようになりますし、慢性腎臓病の患者さんの脱水を予防しつつ、冬場はうっ血にならないような塩分の調整をするなど、年をまたいで診ていかないと理解できないところもしっかり学べます。最終的にはプライマリケア医として、外来診療や訪問診療、必要があれば救急医療で活躍できるようになってほしいので、そのための外来研修に力を入れています。
研修での連携先も幅広いですね。
それも一つの特徴です。浜松医科大学医学部附属病院の研修プログラムということで、全県挙げてのような形で、静岡県の津々浦々の病院で、その病院が得意とする専門科や研修を選び、専攻医の習熟度や学びたい内容に合わせて勉強できる体制が組まれています。
ミシガン大学家庭医療学教室との連携についてもお聞かせください。
SFMはミシガン大学のマイク・フェターズ先生と磐田市立総合病院の寺田雅彦先生の「ここでプログラムができたらいいね」という話がきっかけの一つとなってできたプログラムです。フェターズ先生は今は教授になられていますが、かつて高校生のときに1年間の交換留学で菊川市にいらっしゃったことがあり、そこからのご縁だそうです。それでプログラムの最初からミシガン大学が関わっていて、今に繋がっています。フェターズ先生の日本語は私たちの英語よりも堪能です(笑)。アメリカでは日本人の診療もされているので、ミシガン大学の家庭医療科のクリニックには日本人の看護師さんもいますし、日本語で診療を受けられるブースもあります。フェターズ先生は年に何回か来日され、指導をされたり、研究面でのサポートをしてくださっています。また、SFMの期間中に希望があればミシガン大学への2週間の留学も可能です。私も行ったのですが、家庭医療科のクリニックはドミノファームというドミノ・ピザ本社の農場の中にあるので、ドミノ・ピザを食べつつ、しっかり勉強もできて、楽しかったですね(笑)。英語が苦手な人でも、日本語でアメリカの家庭医療を勉強でき、研究の相談もできるのは有り難い環境だと思います。
SFMのほかの特徴もお聞かせください。
女性医療を研修できることです。産婦人科と聞くと、卵巣や子宮の手術をするといったような女性器外科のイメージがありますが、SFMでは女性特有の様々な健康問題に対応するためのプライマリケアを大事にしています。もちろん子宮頸がん検診や経腟超音波検査などの手技も研修しますが、患者さんの半数が女性なのですから、生理が辛い、重い、更年期で身体が火照るといったことに対応できるようにならないといけませんので、そうした内科的側面からの学びを重視しています。
綱分先生がいらっしゃる御前崎市家庭医療センターしろわクリニックの特徴もお聞かせください。
静岡県御前崎市という港町にあり、3万人ほどの人口の街の医療を支える一端を担っています。このあたりは静岡県でも最も医師がいない地域で、私たちがここにクリニックを開院するまで、このあたりに住む人のうちの7割が市外の医療機関まで通院していました。しろわクリニックの特徴としてはリハビリテーションが挙げられます。理学療法士が4人常勤し、外来での通院リハビリ、介護保険制度での訪問リハビリを提供しています。リハビリはもちろんですが、そのほかの診療でも多職種で関わり、どのような患者さんにも医療を行っています。クリニック内には専攻医の教育を担当する指導医が必ず1人います。常勤の指導医は2人なのですが、非常勤を含めると3、4人いますので、専攻医、初期研修医、学生の教育にあたることができます。きちんと時間が決まっており、教育担当の時間に外来に入ることはありません。誰かが外来をしている裏で、誰かが教育をしています。
浜松医科大学医学部附属病院総合診療研修プログラム(静岡家庭医養成プログラム:SFM)終了後はどのようなキャリアアップが望めますか。
私はこのプログラムで育った1期生です。プログラム終了後はここのスタッフ、かつ指導医となって、診療や教育、大学と連携しての研究を行ってきました。そのような人もいれば、女性医療をさらに勉強したいということで、専門医を取るための研修に行き、専門医取得後にここに指導医として戻ってきた人もいます。それから開業医をされているご実家を継承開業した人もいますし、総合内科の病棟担当医になりたいということで病院に勤務し、家庭医療というよりは総合内科医としてのキャリアを積んでいる人もいます。
カンファレンスについて、お聞かせください。
日々の研修の振り返りのカンファレンスとしては専攻医、初期研修医、学生と一緒に、診療後に集まって行うものがあります。専攻医がその日に診た患者さんの症例を提示し、もう少し詳しくディスカッションということであれば、診断や治療について話したりもします。それから月に2回、グランドラウンドがあり、木曜日の午後を全て使って、専攻医の振り返り、外部講師による専門的なレクチャーやワークショップを開催しています。ミシガン大学やノースカロライナ大学などの海外からの講師もお招きし、そうした時間を教育にあてています。
女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。
産前産後休暇や育児休暇はきちんと取得できますし、最近は男性医師も育児休暇を取得するようになりました。子どもが産まれてから数カ月は仕事を休んだり、早めの退勤や遅めの出勤ができる育児短時間勤務制度を利用する人も増えてきました。女性医師だけではなく、男性医師も家庭を大事にできるプログラムになっています。
先生が家庭医を目指されたのはどうしてですか。
私は医学部に入学する前に葛西龍樹先生の講演を聞いたことがあります。葛西先生は現在、福島県立医科大学で家庭医療学の教授をされていますが、その講演がきっかけとなって家庭医療に興味を持ち、大学時代には家庭医療勉強会に入っていました。将来は医師が足りなくて困っている地域で、どのような科の患者さんでもしっかり診て、健康寿命を延ばしたいと考えていたんです。そのうちに家庭医療という専門分野があることを知り、これだと思いました。
初期研修は大学病院でなさったんですね。
将来、様々な引き出しがあった方が何かのためになるのではないかと考え、母校の山口大学医学部附属病院で初期研修を行いました。家庭医、プライマリケア医として重要な診療科は内科、外科、小児科、産婦人科、皮膚科、整形外科ですが、その中で小児科、皮膚科、整形外科を少し長めにローテートし、全ての内科を勉強しました。
初期研修終了後にSFMを選ばれたのはどうしてですか。
5年生のときにパリアメリカ病院の日本診療所で部長をされていた佐野潔先生のような家庭医療を私もしたいと憧れ、お話を伺いにフランスに行ったことがありました。その佐野先生が静岡で家庭医療のプログラムを立ち上げ、そこで指導医をされると聞き、静岡には知り合いもいませんでしたが、佐野先生とのご縁でSFMの1期生として静岡に来ました。
先生の後期研修医時代の思い出をお聞かせください。
今は「家庭医療の専攻医です」と言えば「分かりました」と言われるし、研修システムも整っていますが、当時は家庭医療を知っている人がほとんどいなかったので、「家庭医って何」「家庭訪問する医師のこと?」と聞かれることもあり、皆がはてなマークでしたね(笑)。でも私なりに勉強してきた家庭医像があり、それをもとに「これを学びたいです」と言えたのが良かったのかなと思っています。「家庭医として何でも診たいので、色々と勉強させてください」と診療科をローテートするごとに言っていると、皆さんが良くしてくださって、3年間の後期研修を無事に終えることができ、今に至るという感じです。
専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。
専攻医がこれまで受けてきた教育はそれぞれ違いますし、どこまで到達しているのか、私たちがどういう関わりをしたら、この専攻医が伸びるのか、安全に医療を進めていけるのかを考えるようにしています。イメージとしては暗くて、でこぼこのある道を専攻医が冷や冷やしながら運転しているときに、私たちはできるだけ大きなサーチライトを車の先に照らし、「右に行くと陥没しているから、左に避けておこう」と、専攻医がでこぼこにはまることなく、安全に運転ができるような指導をしたいと心がけています。
今の専攻医を見て、いかがですか。
皆、いい人ばかりですね。人柄もいいし、勉強もできるし、「こんな素敵な人たちがいるものなんだな」と感心しています。全国の色々なところから来てくれて、有り難い限りです。
現在の臨床研修制度について、感想をお聞かせください。
医師は専門科を決めてしまうと、それ以外の科のことを勉強するのは遠回りになる気がするのか、勉強しなくなってしまいます。興味のあることを一つに絞ってしまったら、そればかりというふうになりがちですが、どの診療科を回っても「これはいつか誰かの役に立つかもしれない」と思って学び続けてもらいたいです。特に家庭医療や訪問診療の分野では初期研修で学んだことが患者さんの役に立つ可能性が大きいです。私たちのときの制度の方が必修科目が多く、それが狭まったり、また広がったりという流れがありますが、スーパーローテートは色々な科のことを勉強できるチャンスですので、初期研修医が様々なことを学べる制度であってほしいと考えています。
現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。
日本の医療が国際的に認められるためにも均質化や質の担保という意味で、この制度を作ったのは良かったです。ただ、総合診療はどうしても内科寄りといいますか、内科、小児科、救急科の専門になりがちなので、どのような地域でもしっかりとプライマリケアを提供できる医師に育てていくという観点からはもう少し改善の余地があると感じています。
これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。
家庭医療はやらないとやれるようにはならないので、家庭医療をやっているところで勉強すると、やれるようになります。スキーを勉強したいと思ったら、スキー場に行かないといけません。まずはローラースケートからとローラースケートを始めても、最終的な滑り方はスキーとは違うので、いくらローラースケートを頑張ってもスキーヤーにはなれません。したがって、家庭医療をしていきたい方は家庭医療をしているところを見て、それを意識しながら、日々の研修に励んでいただくと、より素晴らしい家庭医になれます。見学は随時、受け付けていますので、家庭医療をやっていきたいなと思ったら、見学にいらしてください。研修先の雰囲気は大事ですが、SFMの最大の魅力はその雰囲気です。是非、足を運んで、癒やされに来てください。私も最近は伊豆などに家族で出かけるようになりました。私は寒さが苦手だったのですが、静岡は冬でも温暖だし、ほかの季節も穏やかな気候で過ごしやすいです。美味しいものも色々とあり、地域としてもお勧めです。