専門研修インタビュー

2023-11-01

一宮西病院(愛知県) 指導医(専門研修) 坪内宏樹先生 (2023年)

一宮西病院(愛知県)の指導医、坪内宏樹先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2023年に収録したものです。

一宮西病院

〒494-0001
愛知県一宮市開明字平1
TEL:0586-48-0077
FAX:0586-48-0055
病院URL:https://www.anzu.or.jp/ichinomiyanishi/

先生の近影

名前 坪内 宏樹(ひろき) 先生
一宮西病院 麻酔科・集中治療部部長 指導医

職歴経歴 1970年に愛知県名古屋市に生まれる。1995年に名古屋市立大学を卒業し、名古屋市立大学病院で研修を行う。
1999年に岐阜県立多治見病院麻酔科・救急センターに勤務を経て、2004年に愛知県厚生連海南病院麻酔科・集中治療部に勤務する。
2006年に愛知県厚生連海南病院救急科部長、2013年に救命救急センター長を兼任する。
2014年に三重県厚生連いなべ総合病院に麻酔科部長として勤務する。2015年に一宮西病院に麻酔科・集中治療部部長として着任する。
日本麻酔科学会専門医・指導医、日本集中治療医学会専門医、日本救急医学会専門医、日本DMAT会員など。

一宮西病院の特徴をお聞かせください。

 私が当院での勤務を始めたのは2015年ですが、そのときから比べると医師数がほぼ2倍の約200人になり、病床数も約380床から800床を超える規模まで大きくなりました。一宮西病院という名称ですが、上林弘和理事長が率いる個人病院であり、とても勢いのある病院です。

坪内先生がいらっしゃる麻酔科・集中治療部の特徴もお聞かせください。

当院は2009年に今の形になったのですが、当時から麻酔科があり、麻酔科医もいました。ただ麻酔科は麻酔のみを担当していて、集中治療は各科の医師が集中治療室に入った患者さんをそのまま診るという、
いわゆるオープンICUで運営されていたんです。しかし私が着任してからはそのルールを変更させていただきました。
私は麻酔科医に加えて、集中治療医でもありますので、集中治療室に入った患者さんに関しては全て麻酔科・集中治療科が管理し、治療に携わるというクローズドなシステムにしたのです。
現在は年間800人から900人ほどの重症患者さんが集中治療室に入られているのですが、その全ての患者さんを麻酔科・集中治療科の医師が診ています。
麻酔科・集中治療科には医師が23人在籍しており、全国的にも大きな方の規模にようやくなれたのかなと感じています。
全国的にはオープンICUの病院が8割、クローズドICUの病院が2割で、その2割のうちの半分は救急科の医師が診療していますので、麻酔科の医師が集中治療をしている病院は全国の病院の中の1割ほどだと思います。

一宮西病院の麻酔科や集中治療の専門研修プログラムの特徴をお聞かせください。

当院の麻酔科の特徴でもありますが、麻酔科医が集中治療も診ますので、専門研修プログラムでは集中治療の研修も行うことが特徴です。
私が考えている集中治療のメインは5つあります。循環管理をすること、呼吸管理をすること、鎮痛・鎮静・意識の管理をすること、栄養管理をすること、感染管理をすることです。
これは全身麻酔での管理と同じなのです。したがって、当院のプログラムでは1年目の1年間はまず麻酔を研修し、全身管理の基本である循環管理、呼吸管理、鎮痛・鎮静・意識の管理を身につけたところで、
集中治療の研修を進めていきます。さらに、プログラムに関してですが、当院麻酔科独自のプログラムはあえて作っていません。
当院の症例数や指導医数であれば、どうしても専門研修プログラムに乗ることができる専攻医数が年間3人になってしまい、それ以上の希望者が出たときにお断りすることになってしまうからです。
それはとても申し訳ないですので、現在は藤田医科大学病院麻酔科専門医研修プログラムに連携病院という形で入っています。
そうしますと、藤田医科大学病院と分け合う形にはなりますが、定員が増えますので、当院での研修を希望した専攻医に来てもらうことができます。

一宮西病院の麻酔科・集中治療部で専門研修をされた先生方はどのようなキャリアアップをされていますか。

現状は麻酔科専門医を取得するには4年かかりますが、そのための研修はもちろん当院で可能です。
そして麻酔科専門医を取得したあとのサブスペシャリティとして、集中治療と心臓血管麻酔の専門医も当院で取得できるのですが、
集中治療専門医に関してはこれから制度の変更がありますので、未確定の要素もあります。
現在、集中治療専門医の取得に関しては6カ月の専従期間が必要ですが、きちんと専従させることが難しい医療機関もある中、当院はしっかり専従させることができますので、
どこから見ても恥ずかしくない研修をしたうえで、資格を取ることができます。また、私自身のポリシーとして、医師は若いときに同じ病院に長くいるべきではないというものがあります。
若い医師は色々な場所で働き、色々な医師に色々なことを教えてもらってほしいです。
そのため、専攻医研修後に当院に残ることは可能ではありますが、麻酔科医としての最初のステップを経験したあとは当院で学んだことをより深く追求したり、自分のしたいことを見つけて、色々な病院に勤務することを勧めています。
これまでの人たちの中には集中治療、心臓血管麻酔を学びに行く人もいれば、大学で研究をした人もいますし、
当院ではペインクリニックが経験できないので、ペインクリニックを学べる施設に行った人もいます。現在、当院でもペインクリニックができる体制を作ろうとしているところです。

カンファレンスについて、お聞かせください。

平日の朝8時30分からICUのカンファレンスをしています。
これには前日にICUを担当した麻酔科医2人に加えて当日のICUを担当する麻酔科医2人、ほかの麻酔科医、主科の主治医といった医師、ICUの看護師、理学療法士、臨床工学技士、栄養士も集まります。
医師以外の多職種も加わることで、集学的治療が可能になります。カンファレンスをメインで進めていくのは前日、当日にICUを担当する4人ですが、当院の麻酔科の特徴は集中治療をきちんと学べることですので、
このカンファレンスには麻酔科医が全員集まるようにしています。
ICUには8床あり、専攻医以上の医師1人、専攻医1人の2人が当直し、8人の患者さんの前日の状態を伝えていきますので、30分ほどかかります。
そして9時からは麻酔科のカンファレンスです。その日に担当する患者さんはどういう患者さんで、どういうプランで麻酔をするのかをプレゼンし、指導医が最終確認します。
それからICUのラウンドをします。主科の主治医はフローの業務のためにここで抜けますが、そのほかのメンバーでICUの患者さんの状況を診ていき、私やほかの指導医が専攻医などの若手医師に指導します。
さらに夕方16時30分にもラウンドをして、患者さんが朝よりも悪化していたら、どう修正するのかを検討したり、新しい患者さんが入っていれば、その患者さんについてのディスカッションを皆でして、治療方針を決めています。

先生の近影

専攻医も発言の機会が多いですか。

プレゼンするのは専攻医ですし、発言の機会は多いですね。ICUの患者さんを担当している専攻医は自分の患者さんの報告をして、治療方針を指導医と話し合います。

女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。

当院の麻酔科には23人の医師がいますが、そのうち女性は7人です。ほかの病院の麻酔科は男女半々か、もしくは女性の方が多いところもありますので、
当院の麻酔科の女性の割合は全国的には少ない方になるでしょう。しかし7人中3人が産休に入っていますし、女性の働きやすさは日本一ではないかと自負しています(笑)。
当然のことですが、いつ結婚する、出産するというのは個人のことであり、自由に決めることですので、3人の産休が重なっても、そんなものかなと受け止めています。
有り難いのは男性医師に仕事がシフトしてきても、誰一人文句を言わず、女性の事情を理解していることです。こういう職場なので、女性医師が嫌な気持ちになることがないのかなと思っています。
医師の仕事は大事な仕事ですが、生命を産み出すことも大事な仕事です。女性が出産するかどうかは個人の自由ですが、もし子どもが欲しいと願っている人がいるなら、その時期は妊活や出産、子育てに集中できる環境を整えたいと考えています。

先生はいつから麻酔科を目指していたのですか。

私が医師を目指したのは昭和の時代でしたし、男の子らしく、外科医になりたいと漠然と思って、大学に入学しました。
私が入学した名古屋市立大学は麻酔科が集中治療をすることが伝統になっており、5年生のときに実習で麻酔科を回り、ICUを見たんです。
そのときに担当だった先生が5人ぐらいの学生に対し、「こういう患者さんがいて、こういう状況なんだけど、君ならどうする」と質問をしてくださいました。
そこである学生が学生ならではの拙い知識で「こうします」と一生懸命になって答えると、その先生は「そしたら患者さんは死ぬな」と言われたんです。
私も当てられ、答えたのですが、やはり「死ぬな」と言われ、ほかの学生も全て「死ぬな」と1時間にわたって言われ続けました。今ならパワハラと言われかねない指導ですね(笑)。
それで、その先生が「このままだと、君たちは患者さんを殺しかねない。
君たちが何科に行こうが構わないが、患者さんを殺すような医師になりたくないのなら、麻酔科に来て、集中管理を学べ」と言われたことが私が麻酔科を選んだ理由です。
そして、その1時間、私たちをいじめた先生が私の師匠になりました。その先生のお蔭で、今もICUで働けていますし、ICUの医師をすることができているのかなと感謝しています。

先生の「救える生命は必ず救う」という信念はその医学生時代からずっとお持ちなのですか。

これは研修医時代からですね。私は名古屋市立大学の麻酔科に入局したのですが、その医局は麻酔科と言いながら集中治療や救急もしており、色々な先生方から麻酔科、集中治療、救急を学ぶ機会がありました。
だから、私の「若いときには色々な医師に教わった方がいい」という考えはそこから来ているんです。
そして、色々な先生方から教わる中で、ICUというところでしか救えない生命があること、ICUという場所に入っても、きちんと集中治療ができる医師でないと救えない生命があること、ICUという場所にうまく連れてこないと救えない生命があることを学んできました。
やはり人を救うためには守らなければいけないこと、簡単なことだけれど、ちょっとしたルールを守らないといけないことがあり、そういうことを守ることができると、救える生命をきちんと救えます。
逆に、そういうことをきちんと教わっていない人がいると、何かがあったときに抜けがあったりして、救えなかったりするのです。それは今、私が若い医師に伝えていることでもあります。

救える生命を救えると遣り甲斐になりますね。

若い頃にこういう仕事を教えていただいて、亡くなりそうな患者さんを助けたときはとても嬉しかったんです。
「俺、すごい」とも思いました(笑)。少し変わったことをして助けたり、テレビドラマのような劇的な手術をして助けたりすることができると、確かに遣り甲斐を覚えましたし、この仕事に就いて良かったなとも感じます。
しかし、10年目を過ぎた頃、とても怖くなったんです。以前はそういう救命をすることはとても誇らしかったことなのに、「もし、この場に若い医師しかおらず、自分がいなかったら、この患者さんはどうなっただろう」という気持ちになりました。
「この病院に行ったから助かった、この医師がいたから助かった、この病院でないなら、この医師でないなら亡くなっていた」という世の中は間違っています。
どこの病院に行っても助かる患者さんは助かるのだという世の中になってほしいのですが、残念ながらまだそうではないのだということを感じてしまったんですね。
私自身は仕事ができる医師では決してありませんが、有り難いことに「生き死に」に特化したしたことだけはそれなりにできるようにと、先輩方に仕込んでいただきました。
今度は私が持っている知識を若い医師に教えていきたいということで、当院で若い医師を集めて、指導をしています。
当院で学んだ医師がその先で積極的に様々な病院に行って研修したり、あるいはその病院にいる若い医師を教えたりしながら、そうした知識を伝えていき、死ななくていい人が死なない世の中になればいいなと考えています。

専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

研修医に対して、「何で、こんなので呼んだんだ」という言葉を使わないことを心がけています。
これは医師が口に出すべき言葉ではありません。例えば、初期研修医や専攻医が患者さんを診て、緊急だと感じたときに上の医師を呼びますが、そこで「何で、こんなので呼んだんだ」と言う医師もいます。
上の医師は軽い感じで言っているのかもしれませんが、この言葉を言われた人はその後、その医師を呼びにくくなり、そうすると本当に呼ばないといけないときに相談できなくなるんです。
同様に、看護師さんが初期研修医や専攻医を呼んだ際も、その言葉を言わないようにと指導しています。
それから、もう一つ心がけていることは「呼ばれたら、診にいく」ことです。離れたところから、電話だけでああしろ、こうしろと言うだけの医師もいますが、
目の前にいる患者さんにとって一番大事なのは今、診てくれている医師であり、離れたところにいる偉い部長ではありません。
今、診てくれている医師が初期研修医であれ、専攻医であれ、患者さんにとっては一番大事な医師なのだから、彼らが相談してきたときには基本的には一緒に診るようにしています。

今の専攻医を見て、いかがですか。

勉強熱心ですし、真面目だと思います。私たちが若い頃は不真面目でしたし、論文を読もうにも取り寄せるなどの手間もありました。今は学ばないといけないことも増えていますし、情報へのアクセスが良くなったこともあり、論文もインターネットで読めるようになりました。
その意味で、今の初期研修医や専攻医は調べたいことに対して、とても熱心に調べて、よく勉強しています。
ただ、知識は増えたものの、工夫をする力や考える力については課題があります。専攻医の知識をいかに患者さんに提供していくのか、考える力をいかに伸ばすのか、指導医も考えていかなくてはいけません。

現在の臨床研修制度について、感想をお聞かせください。

私たちの世代は即入局の時代で、各科を回る研修をしたい人はそれができる病院を自分で探して研修をしていましたが、私が卒業した名古屋市立大学では即入局の方が多かったです。
それで私も医師免許を取ってすぐに麻酔科医になりました。しかし1年後、この先も麻酔科や集中治療を続けていくうえではほかの科の知識が足りないのではと思い、当時の教授にお願いして、ローテート研修に行かせていただいたんです。
現在の臨床研修制度は医学生の延長だと言われることもありますが、医師免許を持ってローテートをすることはそれなりに意味がありますし、どこの場面でそれが役に立つかどうかは分かりません。
若いうちは色々な病院で、色々な経験を積んでいくのは良いことですので、この制度のもとで色々な診療科を回ることも良いことだと考えています。

現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。

私自身は麻酔科医でもあり、救急科の専門医でもあり、集中治療の専門医でもあります。
しかし現在の専門医制度では麻酔科の専門医と救急科の専門医の両方を取得することがなかなか難しくなります。
もちろん時間をかければ取得できるのですが、仕事のうえではそれらを分けることはできません。
私は麻酔もしますし、集中治療もしますし、救急の患者さんも診ているので、それができる医師を育てたいし、それができるゆえに助かる患者さんもいるのですが、
そういう医師を養成していくことがこの先は難しくなるのではと思っています。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

専攻医全般に関する話はできませんので、麻酔科医を志す人にお話ししておきたいことがあります。
麻酔科医とは何ぞやという話です。麻酔科医になりたい人はきっと色々な思いがあって、麻酔科医を志しているのでしょう。
そこで「麻酔科医とは何ぞや」です。麻酔をするのが麻酔科医なのですが、他科、特に手術室に来る外科系の医師に「麻酔科医はどういう存在で、麻酔科医に何を期待していますか」と聞くと、
彼らは「手術中に患者さんがどんなに危険な目に遭おうが、何とかしてくれる人」だと答えます。
例えば、手術中に患者さんの血圧が突然下がったときに、それを何とかしてくれるのが麻酔科医だという認識です。
私自身もそうありたいと思ってきたわけですが、今は薬、モニター、道具が発達したこともあり、全身麻酔はとても安全なものになりました。
私よりもさらに前の世代では麻酔をすること自体が危険だった時代もあります。
でも今は麻酔で起きる事故の可能性は非常に低く、麻酔科の専攻医研修4年間の中で手術室で何かが起きるという経験をすることはまずなく、手術室での急変時に対応できる能力を身につけることはむずかしいです。
そうすると、手術室で麻酔の研修をして専門医になっても、目の前の患者さんが亡くなりそうなときに本当に役に立つ麻酔科医なのかというと、残念ながら経験値が足りません。
他科の医師が期待する「何とかしてくれる麻酔科医」になるための知識や技術を磨くためにはそれが経験できる場所に行くべきで、それがどこなのかと言うと集中治療室です。
ICUには今すぐ何かをしなくてはいけない重症の患者さんがいて、手術室では経験できないことが学べます。
集中治療室での知識を持った医師が麻酔をすると、手術中に血圧が下がった、酸素が悪くなったというときに対応できるんですね。
したがって、麻酔科医を志すのであれば、専攻医研修では集中治療を経験してほしいです。
手前味噌ではありますが、当院の集中治療室は麻酔科が運営しているクローズドな集中治療室ですので、専攻医研修にはお勧めです。是非、候補の一つに入れていただければ幸いです。

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