初期研修インタビュー

2023-12-01

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター(沖縄県) 初期研修医 業天一生先生、森嶋由佳先生 (2023年)

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター(沖縄県)の初期研修医、業天一生先生、森嶋由佳先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2023年に収録したものです。

沖縄県立南部医療センター・こども医療センター

〒901-1193
沖縄県島尻郡南風原町字新川118-1
TEL:098-888-0123
FAX:098-888-6400
病院URL:https://nanbuweb.hosp.pref.okinawa.jp/

業天先生の近影

名前 業天(ぎょうてん) 一生(いっせい)
出身地・出身大学 / 医師免許取得年度 北海道空知郡奈井江町・名古屋市立大学 / 2023年

森嶋先生の近影

名前 森嶋 由佳(ゆか)
出身地・出身大学 / 医師免許取得年度 神奈川県綾瀬市・聖マリアンナ医科大学 / 2023年

医師を目指したきっかけをお聞かせください。

業天先生
 私は法学部に在学していたのですが、在学中に外交官の先生の授業を受ける機会がありました。国際協力についての話で、手洗いなどをするだけでも地域の衛生状態が良くなるといった疫学的なアプローチを知り、面白いなと思いました。
法学部時代は社会学にも興味があり、加えて実家がお寺だというバックグラウンドもあったことも医師を目指したきっかけになっています。
かつてのお寺は人が集まるコミュニティであり、お坊さんは人の話を聞いたり、勉強を教えたり、西洋医学が入ってくる前の時代には加持祈祷をしたり、薬の知識を授けたりもしていたんですね。
しかし、今の時代ではコミュニティの中心で地域と関わり、人から信頼される職業は医師ではないかと考えました。それで大学の卒業と同時に実家の手伝いやアルバイトをしながら受験勉強を始めて、医学部を受験しました。

森嶋先生
 私は高校生のときの三者面談で先生に勧められたのがきっかけです。私の家は医師家系ではなく、家族に医療関係者もいないのですが、先生に勧められたことで、医師について調べるようになりました。
当時は医療よりも国際支援に興味を持っていたのですが、たまたま国境なき医師団の特集をニュースで見たんです。医療のプロフェッショナルとして働ける環境があることに共鳴して、そこから医師を目指すようになりました。

学生生活ではどんなことが思い出に残っていますか。

森嶋先生
 二つあります。一つは関東の医療系の学生によるダンスサークルに所属していたことと、もう一つは選択実習でタイに行ったことです。
ダンスサークルは医学科だけでなく、看護師、薬剤師、珍しいところでは視能訓練士といった職種を目指す学生がいて、大きなコミュニティになっていました。医療系ということでは共通ですが、それぞれのゴールを目指している人たちから色々な刺激をもらえましたし、大学生活の最後の方は大学よりもそのサークルをメインに活動していました(笑)。
タイでは現地の医学生と接する中で、日本の医療は設備は整っているものの、医学生としての自分はまだまだなのだということに気づかされました。日本が先進国であり、自分たちも前に行っていたつもりでしたが、そうではないことが分かり、焦るような思いを抱いたことが印象に残っています。

業天先生
 私も大学との繋がりで言うと、5年生のときにコロナ禍が始まり、臨床実習が中止になったことを受けて、学生と医療機関と指導医を繋ぐプロジェクトを行ったことが印象に残っています。
コロナ禍になり、病院に出ることが制限されるようになったのですが、臨床実習は大学のカリキュラムの一環なので、病院に出る機会を増やそうと思い、大学病院や関連病院の先生方とやり取りを始めました。
もともと勉強会などを開催する団体で活動していたこともあり、そこに教えに来てくださっていた先生方がいらっしゃったので、そういう先生方にお願いして、有志だけの少人数で安全に見学や実地研修ができるためのルールを決めたうえで、愛知県内の7病院ぐらいで受け入れていただくシステムを作りました。これは今も後輩が引き継いでくれていますし、学生ながら医学教育に関わることができたのは面白かったです。社会学が好きだったことも活かせましたね。
このプロジェクトを論文にしたところ、日本医学教育学会大会の優秀発表賞Student Awardをいただき、学会で発表したことも思い出になっています。

大学卒業後、研修先を沖縄県立南部医療センター・こども医療センターに決めた理由をお聞かせください。

業天先生
 私はとてもシンプルな理由です(笑)。医学教育が好きだったので、教育を熱心にしてくれる病院、いつか地域に出ることを考えると何でもジェネラルに診る経験を積める病院が良かったです。ジェネラルに診る力はその後、どの科に進んでも役立つのではないかと思いました。
当院は子どもから大人まで診られることが良いポイントでしたし、特に子どもに関しては小児総合診療科があり、そこで屋根瓦式の教育を最新の教育理論に基づいて、心理的安全性を保ちながら教育していく体制が敷かれていたことが魅力的でした。
理論に則った教育が実践されている病院はなかなかない中で、当院はそういう場所だと感じられたことが当院に決めた理由の一つです。

森嶋先生
 私は留学した経験が大きいです。将来は外に出たいと考えているので、最初はがむしゃらに働ける環境がいいなと思っていました。
当院は初期研修医でも現場に出てファーストタッチをさせてもらえることに加え、全国にハイパーと呼ばれる病院はいくつもありますが、当院は初期研修医が精神的、身体的に病んでしまった場合の救済措置やフォローがしっかりしています。
最初の2年間に頑張りすぎて、病んでしまったという事例があることも先輩たちから聞いていたので、当院の仕事とプライベートのバランスの良さにも惹かれ、当院に決めました。

業天先生・森嶋先生の写真

見学に来たときの印象はいかがでしたか。

業天先生
 私は5年生のゴールデンウィーク、夏、冬、6年生の夏の4回、見学に来ました。
見学では毎回、初期研修医同士がとても仲がいいという印象を受けました。それは誰もが口を揃えて言うことですね(笑)。

森嶋先生
 私は5年生の夏が最初で、5年生の冬と6年生の春の3回来ました。オンラインの説明会で受けた印象の通りで、本当に良い印象でした。

沖縄県立南部医療センター・こども医療センターでの初期研修はイメージ通りですか。

業天先生
 イメージ通りですね。

森嶋先生
 そもそもイメージが良かったですしね(笑)。

プログラムの特徴はどんな点でしょうか。

森嶋先生
 1年目は選択がなく、決まった診療科を回ります。でも、それがいいですね。
というのも、1年目に選択科を決めろと言われても、医師としての基礎知識もないのに得られるものはないからです。1年目はかっちりと決まった科を回る方が選択科を決めるストレスなく回ることができます。それを不自由に感じる人もいるかもしれませんが、私には良かったです。逆に2年目は選択期間が長くあります。

業天先生
 小児科を回る期間が7週間ありますので、やはり小児科に特徴があると思います。
1年目では小児総合診療科を回り、小児の心臓や腎臓といった臓器別の診療科やNICUは2年目の選択期間に選ぶことができます。小児総合診療科ではジェネラルな臨床を充実した教育体制のもとで学べます。小児総合診療科ではたしかに小児を診るのですが、考え方に関しては成人の病棟管理にも役立ちます。救急も小児総合診療科がタッチするので、初期研修医が救急の患者さんを診て、小児総合診療科を回っている専攻医がそのコンサルトを受けるのですが、逆に初期研修医が小児総合診療科を回っているときにはコンサルトを受ける側になり、専攻医の先生と一緒に行くことになります。
その相互の関係性を学べるのは良いですね。私たちが救急で診た患者さんが病棟でどのように治療されて、退院していくのかが分かりますし、その過程を知ることは成人を含めたどの科に進んでも役立つものなので、教育としてもいいものだと感じています。

プログラムの自由度は高いですか。

業天先生
 2年目に選択期間が5カ月あります。

院外での研修はありますか。

業天先生
 地域研修は1カ月あり、離島研修が大きな特徴です。県内の病院はもちろん、石巻赤十字病院や熊本労災病院の救急科を選ぶこともできます。

沖縄県立南部医療センター・こども医療センターでの初期研修で勉強になっていることはどんなことでしょう。

森嶋先生
 当院には当院育ちの先生方もいらっしゃいますが、色々な病院から来られた先生方や専攻医の先生方が多いので、当院で特徴的な部分を「実はそうではない」と教えてくださることもあり、偏らない指導を受けられることが勉強になっています。その意味で多様性があり、縛られていない先生方から学べることは大きいです。

業天先生
 本当にそうですね。沖縄県出身者よりも県外から集まってきている先生方の方が多く、バッググラウンドが様々です。沖縄県内にいても、色々な病院の考え方や色々な病院を経験された先生方の話を聞けるので、偏りがない学びを得られています。

失敗談はありますか。

森嶋先生
 失敗しますよね(笑)。

業天先生
 しますね(笑)。もちろん医学的なことへのサポートもありますし、当直中もある程度の方針を決めたら2年目の初期研修医や専攻医の先生に相談しますが、その相談しやすさもあるため、大きな失敗はありません。
ただ、社会的な面で言うと、救急で忙しくなり、ウォークインの患者さんを診ていたら救急車が来て、ウォークインの患者さんをお待たせしたときに「何でそんなに待たせるんだ」と言われたりすることはあります。患者さんも体調が悪いわけだから、長くお待たせするのは良いことではありません。でもそういう場合の対応や人としての礼儀などの指導もいただける病院なのはいいなと思います。

森嶋先生
 患者さんに直接、害になる失敗はしていないのですが、あり得る失敗は数多くあります。
でもすんでのところで止められ、「こういうところに配慮が足りなかったね」というフィードバックがすぐに飛んできます。怒られもしますが、その分、成長できていますし、かつ患者さんへの害のない環境なのはいいですね。

初期研修にあたって、どのような姿勢を心がけていますか。

業天先生
 日々、学びの姿勢です(笑)。初期研修は土台を作る場ですので、きついことでも何でも「こういうものだ」と受け入れたいと思っています。

森嶋先生
 私もそうです。私は将来の診療科がまだ決まっていないですし、決まっていたとしても、必要でない仕事はないと思っています。同期や先輩方も「私はこの科に行くから関係ない」というスタンスで仕事をしている人はいないので、全部が前のめりです(笑)。

森嶋先生の写真

当直の体制をお聞かせください。

業天先生
 1年目は月に平均6回です。

森嶋先生
 指導医1人、専攻医1人、2年目の初期研修医2人、1年目の初期研修医2人という体制です。専攻医はいないこともあります。

当直で勉強になっていることはどのようなことですか。

森嶋先生
 勉強ばかりです(笑)。本当に実践という感じです。救急の流れはある程度、決まっており、それは4月、5月に詰め込まれます。
まずは初期研修医がファーストタッチして、そのあとの動きについては専攻医や指導医の先生から適宜、教えていただきます。実践があり、経験ごとに学んでいきます。

業天先生
 15歳未満の子どもが4割を占めています。子どもの普通の風邪を診たり、その隣では心不全の高齢の患者さんを診ると思ったら、また戻ってきてウォークインで来た喘息の子どもに聴診してくださいと言われるなど、幅広く色々な症例を診ています。
待てるものから待てないものまで、患者さんの年齢が変わると鑑別も変わってきますし、優先順位やマネジメント、状態を考えていかなくてはいけませんので、学びばかりです。

指導医の先生のご指導はいかがでしょうか。

業天先生
 基本的に怒られることはなく、理にかなった指導をいただいています。納得する指導なので、常に勉強になっています。

森嶋先生
 理不尽なことがないんですよね。

業天先生
 もちろん厳しいことは言われますが、その通りという感じです(笑)。

森嶋先生
 何も言い返せないですね(笑)。

カンファレンスの雰囲気はいかがですか。

森嶋先生
 小児総合診療科は朝、カンファレンスがあります。患者さんの状態や治療方針だけでなく、それぞれのしていることで足りないことを指摘されますし、そのカンファレンスに全てが詰まっていると言っても過言ではありません。

業天先生
 小児総合診療科では初期研修医が担当患者さんを持っているので、カンファレンスでその患者さんについての自分なりの方針やプランを考えたうえで一通りのプレゼンをします。専攻医の先生も一緒にいて、足りないことをフォローしてくださいます。
そこに対して、指導医の先生からフィードバックをいただくのですが、患者さんの今日の様子や今月のプランなどを既にプレゼンしているため、指導医の先生も初期研修医の分かっていた部分と分かっていなかった部分を共有されており、理解度を把握されたうえでのフィードバックなので、「そこはそう考えるべきだったな」と勉強になります。そこでもやはり温かい雰囲気なので、心理的安全面が保たれているんだなあと感じながら参加しています。

コメディカルスタッフの方々とのコミュニケーションはいかがですか。

森嶋先生
 優しいですよね。

業天先生
 話しやすいですね。

森嶋先生
 怖いときがあっても、きちんとした理由があり、理不尽な怖さでありません。

業天先生
 私は全く怖さを感じたことはないですね(笑)。

森嶋先生
 さすがです。でも楽しくやっています(笑)。

病院に改善を望みたいことはありますか。

森嶋先生
 これは院長先生にもお話ししたことですが、当院はこども病院というイメージが全国的に強いようで、小児科の専攻医の先生が多く、成人の科の専攻医の先生が少ないです。
当院は成人を診ない病院では全くなく、成人の患者さんもとても多いので、そのバランスを取ってほしいです。でも院長先生も同じことを思っていらっしゃったようで、「そこが目下の課題です」とおっしゃっていました(笑)。

同期は何人ですか。

業天先生
 16人です。14人が当院のプログラムで、2人が琉球大学病院からのたすきがけで来ています。

研修医同士のコミュニケーションは活発ですか。

業天先生
 活発です。研修医室があり、そこには専攻医の先生もいるので、専攻医の先生にも相談しやすい環境です。

お住まいは寮ですか。

森嶋先生
 私は寮に住んでいます。寮は男性用と女性用の2つに分かれていますが、女性用であっても、ほかの住人には男性もいます(笑)。建物としての女性用ではないのですが、とても綺麗で住みやすく、家賃も安くて、駐車場もついています。苦労は全くないですね。病院まで歩いて5分、走れば2分のところにあります。

業天先生
 私は寮ではなく、普通に借りています。自分で借りる場合は家賃手当はありません。

今後のご予定をお聞かせください。

森嶋先生
 救急系か外科系で迷っています。私はどちらの専門医も取りたいという強欲タイプなのですが、そういう先生方は当院に多いです(笑)。救急の専門医を取られたあとで、救急を一旦止められ、外科や内科を学び直していらっしゃる先生方の存在は身近な目標になっています。

業天先生
 私は心臓血管外科か外科で考えています。外科系に進み、50歳、60歳になった頃に総合診療科に行くといった長いスパンでは総合診療科もいいなと思っています。沖縄には半年住んだところですが、住めば都ですし、専攻医研修先も迷っているところです。

森嶋先生
 私は今後、小児科を診ることはないなと思い、初期研修ではあえてこども病院に来たのですが、初期研修で小児科にとてもはまってしまいました。小児科は診ない、専攻医研修ではほかの病院に行くと言っていたのに、当院に残って小児科医になっているかもしれません(笑)。

業天先生・森嶋先生の写真

ご趣味など、プライベートの過ごし方について教えてください。

業天先生
 学生時代からアルバイトで、フィットネスジムのインストラクターをしていたこともあり、今も基本的にはトレーニングをしています。それからステアクライミングの競技に出ているので、週末や階段や山に登りにいくことも多いです。

森嶋先生
 先日は世界大会にも出ましたね。

業天先生
 夏に有給休暇を取ってマカオに行き、マカオ・タワーの階段を登ってきました。ステアクライミングは大学生のときに始めたのですが、昨年から日本でのサーキットが始まったので、昨年に引き続き、今年も出場しています。

森嶋先生
 最近、ダンスを再開しました。近くのスクールに通うようになり、着々とコミュニティを作り始めたところです(笑)。マリンスポーツも好きなのですが、沖縄は気軽に潜りに行けるのがいいですね。

業天先生
 やはり沖縄に残るしかないでしょう(笑)。

森嶋先生
 残るしかないですかね(笑)。

現在の臨床研修制度についてのご意見をお願いします。

業天先生
 私はとても好きな制度です。この制度があるから、沖縄に来ました。スーパーローテート発祥の地、沖縄です(笑)。

森嶋先生
 私もジェネラルに診たいと思っていたので、色々な科を回って、色々な先生方の姿勢から、人を診るということがとても勉強になっています。

最後に、これから初期臨床研修病院を選ぶ医学生に向けて、メッセージをお願いします。

業天先生
 沖縄は初期研修医にとっては最高の場所です。沖縄県として、初期研修を応援しようという姿勢があり、勉強会も活発に開かれていて、ほかの病院の初期研修医との繋がりができます。2年間、ジェネラルに学んで、今後の医師人生の土台を作る意味では沖縄は最適だと思います。

森嶋先生
 医療者側からもそうですが、患者さんも同様で、「研修医だから駄目」ということが全くなく、県民性としても「やりなよー」みたいな感じなので、成長させてもらえる環境が整っています。見学に来ていただいたら、その違いが分かると思いますので、遊ぶついででもいいから見学にいらしてください。

業天先生
 見学で海も感じて、自然も感じてください(笑)。

【動画】業天先生・森嶋先生

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