専門研修インタビュー

2021-06-01

静岡県立総合病院(静岡県) 指導医(専門研修) 坂本裕樹先生 (2021年)

静岡県立総合病院(静岡県)の指導医、坂本裕樹先生に、病院の特徴や研修プログラムについてなど、様々なエピソードをお伺いしました。この内容は2021年に収録したものです。

静岡県立総合病院

静岡県静岡市葵区北安東4丁目27-1

医師近影

名前  坂本 裕樹(ひろき)
静岡県立総合病院循環器病診療部長、指導医

職歴経歴 1969年に和歌山県田辺市に生まれる。1994年に三重大学を卒業後、京都大学医学部附属病院で研修する。1994年に市立島田市民病院に勤務する。1998年に康生会武田病院に勤務する。2004年に日本赤十字社和歌山医療センターに勤務する。2010年に国立循環器病研究センターに勤務する。2013年に静岡県立総合病院に循環器内科医長として入職する。2015年に静岡県立総合病院循環器病診療部循環器センター長に就任する。2017年に静岡県立総合病院循環器病診療部長に就任する。
京都大学医学部循環器内科臨床教授、日本内科学会認定医・総合内科専門医・日本内科学会指導医、日本循環器学会循環器専門医、日本心血管インターベンション治療学会認定医・専門医、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)認定制度CoreValveシリーズ指導医、経カテーテル的大動脈弁置換術(TAVR)認定制度SAPIENシリーズ指導医、経皮的僧帽弁接合不全修復システム認定術者、経皮的卵円孔開存閉鎖術実施医、静岡県難病指定医導医など。

静岡県立総合病院の特徴をお聞かせください。

 静岡県の中部地域で中心的に機能している総合病院です。規模も非常に大きく、ほとんどの診療科が存在しています。

坂本先生がいらっしゃる循環器病診療部についてはいかがですか。

 静岡県の中部地域を中心とした中核病院で、救急車で来院する重症患者さんを含めて、多くの患者さんがいらっしゃいます。あらゆる循環器疾患の治療が可能であり、当院でしかできない治療もありますので、静岡市外の総合病院からご紹介をいただく機会もあります。

医師近影

静岡県内で、静岡県立総合病院の循環器病診療部でしかできない治療とはどのようなものですか。

 僧帽弁逆流閉鎖不全症に対するMitra-Clip、Watchmanを用いた左心耳閉鎖術治療などは2021年春時点では当院のみ施行可能です。昨年心アミロイドーシスに新しい薬剤を投与できる施設認定を取りましたが、これは県内で2施設目です。また、大動脈弁狭窄症に対するTAVIは県内では5施設で行っていますが、当院はそのうちの一つです。このように、県内では当院でできない治療はないという状況です。

静岡県立総合病院の内科専門研修プログラムで学べる特徴について、ご紹介くださいますか。

 私は循環器内科医ですので、他科のことはよく分からないのですが、内科プログラム全体として言えることは自由度が高いということです。今の内科専門医制度では循環器内科志望で専攻医研修を始めたとしても他科の色々な症例を診ないといけないのですが、当院の内科専門研修プログラムでは初期研修の段階で足りなかった症例を診るべく、それぞれの診療科を比較的自由にローテートできます。基本的には専攻医の希望に可能な限り沿う形で、プログラムを組み立てています。連携施設も京都大学医学部附属病院をはじめ、18施設ありますので、当院のプログラムに入った専攻医も連携施設で研修することができます。

医師近影

静岡県立総合病院での内科専門研修プログラム終了後はどのようなキャリアアップが望めますか。

 当院に循環器内科医のスタッフとして残ることももちろん可能ですし、県外の大きな病院で循環器の専門分野を学びに行く人もいます。我々としてはその医師のプランに沿ったキャリアアップを支援したいと思っています。

カンファレンスについて、お聞かせください。

 循環器内科では毎朝、集中治療室の重症患者さんの回診をしています。そこでは主治医が治療方針をプレゼンします。夕方にはその日の入院症例やカテーテルを行った症例の治療方針を検討するカンファレンスもあります。毎週水曜日には心臓血管外科との合同カンファレンスがあり、月曜日には超音波専門医の医師(竹内泰代医長)を中心としたエコーカンファレンスを行っています。また、当院では2021年4月からカテーテルによる経皮的卵円孔開存閉鎖術を始めたのですが、これはウォッチマン同様、脳卒中予防のための治療です。この治療を行うにはブレインハートチームカンファレンスで適応などを議論することが義務づけられているので、循環器内科医、脳神経内科医、脳神経外科医によるカンファレンスを月に1回ペースで行っています。循環器内科医ではありますが、脳卒中予防のための治療も行っています。

そうしたカンファレンスでは専攻医も発言の機会は多いですか。

 専門的な分野になりますと、専攻医が意見を述べることは難しくなるかもしれません。しかし、毎日のカンファレンスでは専攻医も主治医として、受け持ち患者さんの症例提示を行っています。

女性医師の働きやすさに関してはいかがでしょうか。

 当科の女性医師は竹内泰代医長と専攻医の吉原美沙子医師の2人です。竹内医師はエコーを専門にしていますが、最近はTAVI、Mitra-Clip、Watchman、経皮的卵円孔開存閉鎖術など、経食道心エコーガイドで行う治療が多く、彼女は一手に引き受けて活躍しています。女性医師が働きやすい職場なのかどうかは分からないのですが、これから女性医師が増えていけば、竹内、吉原両先生は女性特有の悩みなどを聞いてくれる存在になるでしょう。循環器内科は女性医師にとって楽な職業ではないと思います。カテーテル治療での被曝もありますし、体力仕事的な面が大きいからです。女性医師には敷居の高い領域かもしれませんが、女性医師に入っていただけるように循環器内科全体で取り組んでいくことが必要です。これは当院だけの問題ではなく、学会などでも男女共同参画といったプログラムが組まれているところです。今後は育休をとる男性医師も増えていくでしょうし、多様な働き方が許容される必要があると考えます。医師の人生においては仕事のみならず、家庭やプライベートも大事なので、そのバランスを取れるように配慮したいと思っています。

医師近影

先生が入局先に京都大学の老年内科を選んだのはどうしてですか。

 私たちの時代は今と違って医局制度があり、人に惹かれて医局に入るというパターンが多かったような気がします。私は京都大学の老年科に入りましたが、老年医学に興味があったわけではなく、教授の人柄に惹かれました。その後、循環器内科の教授になられた北徹先生です。

研修医時代の思い出をお聞かせください。

 老年科といっても、循環器も腎臓も消化器もあり、北先生のご専門が循環器科だったので、科のメインは循環器でした。私は京大の老年内科で3カ月ほど研修して、夏に市立島田市民病院に移りました。外の病院に早く出たら早く戻ってきて、研究できるかなと考え、手を挙げたんです。手を挙げたのは私だけでした(笑)。卒業後すぐは臨床メインでやっていくとは思っていませんでしたが、市立島田市民病院で臨床医メインでいこうと決めました。そのときの指導医に大きく影響を受けました。

後期研修は市立島田市民病院でなさったのですね。

 人一倍貪欲に、前に前に出て、かなり積極的に研修しました。市立島田市民病院ではバランスの取れた循環器内科医を目指すためのトレーニングをしました。カテーテルや血管内治療などに特化するのではなく、エビデンスに基づいた正しい医療を実践するという基本的な考え方を教育されました。カテーテルを初めて経験したのも市立島田市民病院にいたときですが、今のベースになったスキルを身につけたのは武田病院時代です。武田病院では朝から晩までカテーテルの手技を学びました。

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市立島田市民病院ではほかの内科も学ばれたのですか。

 早く市中病院へ出たため、人の2倍のローテートをしました(笑)。内科のローテートだけですが、呼吸器内科、消化器内科も6カ月ずつ回ったので、その意味では早く出て正解でした。臨床の経験を積むことができました。そして、私は本当に上司に恵まれてきました。それぞれに特徴のある上司に出会い、多くのことを学んできたと思います。

静岡県立総合病院にいらしたきっかけもお聞かせください。

 国立循環器病研究センターに勤務していたのですが、医局人事で当院に来ました。国立循環器病研究センターではPCI部門のチーフではあったものの、診療科のトップとして異動するのは初めてのことでしたので、最初は大変でした。循環器内科は個性の強い医師が多いので、どのようにまとめていくのかを常に考えていました。

専攻医に指導する際、心がけていらっしゃることはどんなことでしょうか。

 私は指導医講習会などでお手本とされているような指導医ではありません。私自身は自分が楽しいと思っていたことを若い医師にも同じように楽しんでもらいたいです。循環器内科は楽しく、面白く、遣り甲斐のある領域だということを感じてほしいです。私はカテーテル治療をメインで行っていることもあり、他科のトップと比べると現場に近いです。部長と部下という関係性ではなく、どういうことを学ぶべきなのか、医師の先輩として伝えるようにしています。

専攻医に対し、「これだけは言いたい」ということはどんなことでしょうか。

 循環器内科は重症患者さんを扱いますし体力的にもきついです。年をとると頑張ることは難しいのですが、若いときには頑張れます。今の努力は必ず報われますので、是非頑張って欲しいと思います。

現在の専門医制度について、感想をお聞かせください。

 完全にできあがっておらず、どういった方向性なのか、全く先が見えません。大きく変えようとしたものの、色々な反対があって変えられなくなった印象です。日本循環器学会のスタンスは変わっておらず、日本内科学会の認定医取得を前提として、循環器のトレーニングを受け、専門医を取得します。ただ、日本内科学会の基準が変わったので、これまで以上に時間がかかるようになりました。私たちの時代と違って、今は初期研修の段階でできることにかなり制限があります。私たちの頃は研修医も完全にマンパワーであり、かつての市立島田市民病院も研修医で保っていた病院でしたし、臨床の中心は研修医でした。当時は私たち世代が中心で、今も私たち世代が中心なんです(笑)。今の時代はリスクを避けるため、初期研修医が以前ほど手技にタッチできず、初期研修医は病院のシステムに慣れたり、簡単なオーダーを出すレベルで終わっています。これは新しい専門医制度の問題というよりは世の中の流れなのかもしれませんが、今は一人前になるスピードが遅いと感じています。

これから専攻医研修の病院を選ぶ初期研修医にメッセージをお願いします。

 私は計算せず、行きあたりばったりのようにキャリアを積んで、ステップアップしてきましたが、そのときどきの上司に恵まれ、色々な指導医から色々なことを学べたとポジティブに捉えています。学べることは全部学びたいと思って、様々な病院に勤務してきました。専攻医研修にあたっては自分の方向性と指導医の考えが一致するかが大事です。どれだけ良い機械があり、どれだけ良いシステムがあって、医師数がどれだけ多くても、指導医が皆さんのしていきたいことと一致しない方向性を持っていたらうまくいきません。結局は人間対人間ですので、「この病院なら何がやれる」といった細かいことよりも指導医の人間性や考えを見て決めましょう。

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